感想[7]は ブログ別館 に掲載しました.
会長講演
日本糖尿病学会では,年次学術集会を開催するたびに,その都度 会長を選任します.
これは その年の学会の単なる事務的運営を統括するだけでなく,会長がその年の『コンセプト』を設定し,それに基づいて特別講演やシンポジウムなどの企画を設定するからでしょう.
今年の会長は,ホストである滋賀医大 前川聡(まえがわ ひろし)教授です.
前川会長のコンセプトは『経糸と横糸で織りなす糖尿病学の基礎と臨床』でした.
このような副題を設定した趣旨を,10月10日のLive配信で『会長講演』として説明されました.
- 『経糸』とは,症例研究を積み重ねることで基礎研究への新たな道がみつかり,
- また『横糸』とは,基礎研究・臨床研究から疫学研究・多施設共同研究への発展であり,
- 経糸・横糸とが相まって 糖尿病医学を広く発展させていきたい
という意味だと解説されました.
有益なケトン体
会長講演では,最近の研究成果の一例として,ケトン体の評価が従来とはほぼ正反対になってきたことを示しました.
マウスにインスリンを過剰投与して血糖値を40mg/dl台にすると,そのマウスはまったく動けなくなるが,ケトン体の原料である1,3-ブタンジオール(これは肝臓でβ-ヒドロキシ酪酸,すなわちケトン体の一つに変換代謝される;下図参照)を与えると,血糖値は45mg/dlなのに 普通に動き回ることができる.
もっとも これは糖質制限食を実行している人からみれば,不思議でも何でもないでしょう.普段 経験していることだからです.
心臓でも
また 最近SGLT2阻害薬投与により,心疾患死亡率が低下することが証明されましたが(EMPA-REG OUTCOME),これもケトン体の心血管保護作用によるものと考えられています.
腎臓も
前川会長は さらにそれだけでなく,ケトン体が腎臓の糸球体の内皮障害を改善することも紹介されました.
以上のように,現在判明しているだけでも ケトン体は,心臓・腎臓・筋肉・インスリン感受性向上と,全身にわたって有益な作用を行っていることが明らかになっています.
今後の身の振り方は
脂肪を分解してエネルギーを取り出す結果、体内にケトン体という有害物質が多量に作り出されます。
糖尿病といふ病気・続編
加えて長期の糖質制限は、かえって糖尿病の発生率を高めたり、ケトン体の上昇により骨粗鬆症や心筋梗塞の原因になったりもします。
『糖質制限ダイエットには 危険がいっぱい!』
旧来の考えに固執して『ケトン体はケトアシドーシスの原因となる有害物だ』とか,『糖質制限食は血中ケトン体濃度が上昇するから危険だ』とさんざん吹聴してきた先生方は,今後どうするのでしょうか? ひとごとながら心配になります.
学会の感想記事は,本館・別館に交互に記載しています.
次回 感想[9]は 別館ブログにあげる予定です.
コメント
ついにケトン体は正義の味方(かもしれない)と言う認識になりましたか。
どんな有効成分でも度を越せば毒になるのはケトン体も同じです。
ただし、通常はどんなに頑張ってもケトン体をそんなに増やせないでしょう。
ケトアシドーシスになるケトン体濃度は15000μmol/L以上じゃないかと思いますが、私はSGLT2 阻害薬服用時に5100μmol/Lになったのが最高です。それでも、現時点ではそんな数字を普通の医師に見せたら即入院でしょう。
今後は医療者の認識が改まるのでしょうか。
>今後は医療者の認識が
まだまだだと思っています.
なにしろ,ついこの間まで(今も?) 『ケトン体は有毒』『ケトン体は低ければ低いほどよい』と信じていて,また周囲にもそう言ってきた人の方が多いのですから.まあ 深刻なケトアシドーシス症状の患者を診てきた先生ならわからなくもないですが.さらに高齢の先生方になると,最近の知見で 自分の見解をUpdateするということが どうしてもできないようです.
糖尿病性ケトアシドーシスはインスリンが作用しない状態で起こるのですが(経験済)、いまだに「糖質制限するとケトアシドーシスになる」と書いている医師や看護師の方はSNSで見かけます。
以前「SGLT2阻害剤の腎保護効果はケトン体と関係がある」という内容の論文を紹介した時も、先生方は総スルーだったのが記憶に新しいです。
今回の学会で,前川会長の講演は ケトン体の利点が解明されつつある,という趣旨でしたが,それでも釈然としないという先生方のコメントがありました.
前川先生の講演を紹介したのは,このサイトだけでしょうか?
http://sankyuu.sakura.ne.jp/topics/2020topics/kou27maegawa.html
前川先生の母校(大阪府堺市 三国ケ丘高校)の同窓会のようです.
ネットを見ると,従来『糖質制限は危険だ!』と連呼していた人で,まだ認識を改めたという人は見当たりませんね. 従来の主張をどう取り繕うのか 楽しみにしているのです.