腸にはビオフェルミン
ビオフェルミンは,1917年に発売以来 100年以上の歴史のある整腸薬です.
ところで メトホルミンも 登場以来60年以上の歴史があり,今も多くの国で 糖尿病の第一選択薬です.
メトホルミンは,
- 肝臓での糖新生を抑制
- 筋肉などの組織のインスリン抵抗性を改善
の2つが主な作用とされています.
今回は,そのメトホルミンが実は 腸でも作用しているというお話です.
癌細胞には糖が集まる
人体の正常な細胞では,酸素がある時にはミトコンドリアにより効率的なエネルギー産生が行れていますが,癌細胞は,酸素があってもなくてもミトコンドリアに頼らない糖代謝を行う(ワールブルク効果)ため,エネルギー源として多量のブドウ糖を必要とします.
癌の有無を画像診断する PET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影)は,これを利用して人体のどこにブドウ糖が多く集まっているかを調べます.ブドウ糖が多い箇所があれば,そこが癌細胞であると見分けられるからです(ただし もともとブドウ糖を多量に消費する脳や泌尿器などにブドウ糖が多いのは正常です).
この目的のために使われるのが 18F-FDGです.
この化合物は 図のように ブドウ糖とそっくりの構造です.実際 人体はこの化合物をブドウ糖と間違えて吸収します. しかし,赤く示した フッソ原子の放射性同位体(18F)[※]は,PET画像で黒く映るので,人体がどこにブドウ糖を多く配給しているのかがわかります.
[※] 18F-FDGは放射能を帯びていますが,半減期が110分と短く,また最終的には排泄されるので人体に有害ではありません.
下の写真はその一例で, 右肺中葉の赤矢印の箇所は,通常 ブドウ糖が濃密に存在する場所ではないことから,ここに肺癌があることがわかります.なお,脳と膀胱が黒く映っているのは,正常です.
糖尿病患者がPET検査を受けたら
ところが,糖尿病患者を癌検査するためPETで撮影したところ,とんでもない画像が得られました.
くっきりと腸の形状が黒くなっている画像だったのです.しかし,これは腸が全部 癌になっているのではありません.18F-FDGが, 癌ではないのに腸に集まってしまっているだけです.
この患者は糖尿病の薬としてメトホルミンを常時服用していました. メトホルミンを服用していると,造影のために注入した18F-FDGが小腸・大腸に集まることが見出されたのです.
しかし 糖尿病患者であってもメトホルミンを服用していない人にはこの現象はみられませんでした. つまり,糖尿病だからこうなったのではなく,メトホルミンを服用していたからこうなったのです.実際同じ人が メトホルミンの服用を2日以上中止して再度PET測定すると,この現象は見られなくなりました.
ということは
本来 癌細胞に集まるはずだった18F-FDGが,なぜこんなところで足踏みしていたのでしょうか? そして 18F-FDGがそうであるなら,人体にとっては区別がつかないブドウ糖もそうであろうことは確実です.
[2]に続く
コメント
PETは2年に1度くらい受けてるのですが、そんなことが起こるんですね・・・
知らなかった〜〜
もちろんメトホルミンは飲んでいないのですが、多分飲んでると予約してても受けられそうにないですね。
ちなみにどんな理由なのだろう・・・
やっぱ糖新生抑制されたので肝臓はグルコースいらんのかねと判断してそもそも腸で吸収されなくなってるとか・・・(汗)
「メトホルミンをのむと 大腸ガンになるのか??」というお問い合わせがあったので,急遽文面を修正しました. もちろん そんなことはありません.
> やっぱ糖新生抑制されたので肝臓はグルコースいらんのかねと判断
肝臓:「あ,メト君 もういいから あっち行ってね」というわけですね. 残念ですが違います. シリース2番目以降をお楽しみに.
18F-FDGは経口投与でしょうか。それとも静注投与でしょうか?
これにより考える方向性が変わってくるように思いますが、どっちにしても私には難問です。
経口投与だとしたら腸管上皮細胞に留まっており、そこで消費されているもしくは腸内細菌が取り込んでしまったと思えるのですが。
回答を楽しみに待ってます。
> 18F-FDGは
静注なのです. 不思議でしょう?