筋肉量と糖尿病[3]~日本病態栄養学会報告より

コロナウイルス騒ぎで このシリーズが長らく宙ぶらりんになっておりました.ここまでの記事の内容は;

一般には,筋肉量 特に骨格筋が多いほうが,また 同じ筋肉量ならよく動いた方が,糖尿病リスクは低い.しかし;

筋肉量を本当に正確に測定する方法は,MRIやCTで筋肉の大きさを実測する以外には存在せず,精度が高いとされる DXA( 二重エネルギーX線吸収測定法 ) や BIA( 生体電気インピーダンス分析法 )であっても,推定法にすぎないというところまで 話を進めてきました.

よくスポーツジムで見かける体組成計は,体重だけでなく. 上記のBIA法で 被測定者の脂肪・筋肉量を測定しています. しかしこの方法はあくまでも,MRI・CTなどで実測した筋肉量に対して高い相関性があるというだけで,精度はかなり高いものの 単なる推定であることに変わりはありません.

(C) うい さん

筋肉に比例する指標があるじゃないですか

糖尿病患者たるもの,定期健康診断を受ければ,真っ先に空腹時血糖値とHbA1cをチェックするのが習い性になっておりますが,血液検査の項目にある「クレアチニン」にも注目しましょう.

クレアチニンとは

筋肉代謝の老廃物です.人体に不要なものなので,最後は腎臓から排泄されていきます.したがって,腎臓機能が正常であれば,血液中のクレアチニンの濃度はそれほど高くなりません. もしも基準値(男性では 1.0 mg/dl,女性では 0.7mg/dl)を大きく上回っていれば,それは腎臓が正常な排泄機能を果たしていないことを意味するので,健康診断では腎症有無の判断基準として使われています.

ところで,この基準値が男性と女性とで違うことからわかるように,クレアチニンは筋肉の老廃物なのですから,筋肉が多ければそれだけクレアチニンも血中に多く出てくるはずです. しかも 筋肉1kgあたりのクレアチニン生成量はほとんどの人で一定です. とすれば,そうです,

クレアチニンは その人の筋肉量の多さを反映しているのです

O-042 クレアチニン/体重比は2型糖尿病発症のリスクとなる [京都府立医大/朝日大学病院]

2004~2014年に健康診断を受診した腎機能を含め健常な成人(男性9,659人;女性 7,417人)を追跡して,体重当たりの血中クレアチニン比と,糖尿病発症率に相関があるかを観測した報告です. 観察期間が5.6年(男性)~5.4年(女性)と短いので,明確な結果まではまとまっていないのですが,特殊な測定を行わなくても,自分の筋肉量 及び 糖尿病リスクがある程度判断できるので,簡便で有用だと思います.

体重当たりのクレアチニン比( = Cre/BW)が高ければ,その人は体格の割には筋肉量が多いことを示しています. もちろん,筋肉量は 一般に女性より男性の方が多いですから,性別で調べた結果が以下の通りです(*).

(*)なお,この報告は 同じ内容が,別途 学術論文として専門誌にも投稿されています.

原論文の Table.1の単位を変更し簡略化

男性の場合は,クレアチニン/体重 比が低い,すなわち相対的に筋肉の少ない人はBMIや腹囲が高く,メタボ傾向にあることがわかります. また追跡期間が5年ほどと短いにもかかわらず,クレアチニン/体重比が高い人に比べて 明らかに糖尿病発症率が高くなっています

一方 女性の場合は,もともとクレアチニンが男性よりも少なく,しかも その最大/最小幅が狭い範囲なので,男性ほど明確な傾向は出ていませんが,やはり似た傾向です.

この指標は,間接的な方法であること,また 腎機能が完全に正常である[★]ことを前提としているので, 筋肉量の推定法としては絶対ではありませんが,それでも自分の長期的傾向の把握には使えるでしょう.何より,単純に健康診断の結果さえあればいいので,簡便です.

[★] クレアチニンが基準値を越えたら,『筋肉が増えた 』 と喜ばないように. 腎機能が悪化したのかもしれません,

次回は 今回の学会参加のまとめを報告します.

コメント

  1. くつわ より:

    大変、楽しみにしてました。
    54才女性です。
    クレアチニン比、現在は0.71ですが発覚時は0.0095です。
    ast/alt比も今は1.2ですが発覚時は0.7でした。
    見事に当てはまっています。
    こういった判断基準が一般的に広がっていたらと思います。

    以前、二度目の暁現象でコメントしたことがあります。
    最近リブレをつけて、暁というより空腹だといつでも上昇し、糖新生が勝っていることが分かりました。
    膵臓が頑張れないので筋肉に期待しているのです。

    • しらねのぞるば より:

      > こういった判断基準が一般的に広がっていたらと思います

      本当に. でも まだまだ 空腹時血糖値とHbA1cしか見ていない医者は多いのですよね.
      一方で 「第二の暁現象」を解明した 松本市の相澤病院のように,従来の発想を越えて研究しているところもあるのですが.
      相澤先生は,今 グルコース感受性について データをまとめようとしているようで,次回の学会発表が楽しみです.

      > 筋肉に期待しているのです
      私も只今 ビバ☆筋肉部 おじさん支部結成を準備中です(<<ネ,ネタです)

      いつも 11時前のブログ更新を楽しみにしております.

  2. くつわ より:

    すみません。間違えてました。
    クレアチニン比、0.013です。0.71って異常ですね。参考にする方もいたら大変。
    グルコース感受性の研究も期待したいです。
    ここが空腹時血糖値上昇のカギだと思えるのです。

    こちらの筋肉部もネタですのでお手柔らかにお願いします(笑)

    • しらねのぞるば より:

      0.71はクレアチニン値ですね. 了解です.
      しかし, 0.0095から0.013とは やはり筋肉量は増えているのでしょう.さすが部長です.

      > グルコース感受性の研究も期待したい
      次回 日本糖尿病学会(5月;於 大津市)で 相澤病院からの発表があるかどうかは不明ですが,そもそも 学会が開催されるのかも怪しくなってきました.3月に開催予定だった医学系学会は相次いで延期になっております.