糖尿病治療中,HbA1cが高い人と低い人の差~日本病態栄養学会報告より

1月24-26日に京都国際会館で開催された 第23回日本病態栄養学会学術集会での報告です.

第23回 日本病態栄養学会 年次学術集会

P-255 当院の糖尿病患者20名の食事記録から,エネルギー配分及び炭水化物エネルギー比率について [小野百合内科クリニック]

札幌市の小野百合先生のクリニックからの報告です.小野先生のクリニックは,医師2名も糖尿病専門医ですが,それだけでなく,看護師5名・管理栄養士5名の内それぞれ3名,つまり合計6名が日本糖尿病療養指導士(CDEJ:Certified Diabetes Educator Japan)の資格を保有している,小規模ながらも充実した糖尿病治療スタッフの施設です.院長の小野百合先生は,北大医学部卒,札幌社会保険総合病院(現 札幌北辰病院)の糖尿病内科部長も務められた方です.

このクリニックに通院治療中で定期的に栄養指導を受けている糖尿病患者の状況をまとめた報告です.

対象患者

年齢層がやや若いですが,それ以外は日本の典型的な糖尿病患者像です.

糖尿病型

1型 糖尿病 7名(男2/女5)
2型 糖尿病 13名(男6/女7)
合計20名の患者

平均年齢

1型 糖尿病 44.1±14.3 歳
2型 糖尿病 55.0±10.5 歳

病歴

1型 糖尿病 22.1±10.3 年
2型 糖尿病 14.0±7.6 年

平均HbA1c

1型 糖尿病 7.6±1.0 %
2型 糖尿病 7.6±4.0 %

平均BMI

1型 糖尿病 24.4±4.9 %
2型 糖尿病 29.2±4.0 %

HbA1cと食事中の炭水化物比率

同クリニックの管理栄養士が患者から聞き取った食事内容を分析した結果です.定期的に栄養指導を受けているので,当然 各自が食事内容記録を持参しているのでしょう.

1型,2型共に 炭水化物比率の高い人ほどHbA1cが高いことが分かります.相関係数が0.710(1型),0.608(2型)と,高い相関です.ただし1型の相関係数は p= 0.074で有意差がありませんが,これは単純にn(患者数)が小さいせいでしょう.

これは全食事中の炭水化物比率ですが,夕食だけで見るとこうなります.

やはり 炭水化物比率の高い人ほどHbA1cが高いです. 相関係数は0.848(1型),0.691(2型)と,さらに高くなり,しかもどちらも P<0.05で有意です. 2型の13名の内,半分以上の8名が炭水化物比率≦50%であり,いわゆる糖質制限食を実行していると思われます.

感想

食事記録から見ると,炭水化物摂取比率は30~70%と広く分布していますから,このクリニックの栄養指導で糖質制限食を積極的に推奨しているというわけではなさそうです(30%台の人もいるので禁止もしていない).にもかかわらず自主的に炭水化物を控えている人は,すなおにHbA1cの結果に表れているということでしょう.

特に2型で炭水化物比率が60%を上回っている人は,すべてHbA1cが7.5%を越えているのに対して,炭水化物比率が40%の人には,HbA1c=5.7%という方もいます.日本糖尿病学会の言う「炭水化物=50~60%が糖尿病食には理想的」であるなら,このグラフはU字型になるはずなのに,なんとも不思議ですね.

[学会報告の紹介が続きます]

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    >「炭水化物=50~60%が糖尿病食には理想的」であるなら,このグラフはU字型になるはず

    HbA1cだけを見る限り、炭水化物が少なければ少ないほど、HbA1cは低くなってますね。

    しかし、総死亡リスクを見ればU字型になると言う論文はよくあり、これをもって糖質制限を批判するのはよく見かける事ですが、その場合でも炭水化物摂取比率が20%を割るようなデータはめったと含まれていません。いわゆるスーパー糖質制限なら12%前後です。
    要するに中途半端な糖質制限のデータしか含んでいません。

    もっと低い摂取比率のデータを加えれば総死亡リスクは再び下がり、ある範囲で3次曲線を描くと私は予想しています。
    要するにU時の底より左側は、たぶん、糖、ケトン体の双方の不足のために死亡リスクが高くなっているのではないかと考えています。
    もっと摂取比率を下げればケトン体エネルギーを効率よく使える代謝に変わり、かつ、ケトン体の抗炎症作用など、エネルギー以外にも寿命延長作用の恩恵を受けられるのではないかと予想しています。
    そんな低炭水化物のデータはなかなか集まらないでしょう。

    あくまでも私自身の経験による感覚と知識をつなぎ合わせただけで、科学的根拠のない仮説です。

    • しらねのぞるば より:

      昨年11月のNHK 『あさいち』でも,糖質を制限すると総死亡率1.3倍!などと連呼していましたが,引用された文献を見ると,例の Teresa Fung教授ですね. この文献ではすべての分析を「動物性か」「植物性か」で分類しており,植物性ならすべてによい結果,動物性ならすべてに悪い結果が出るとしています.この文献に限らず,Google Scholarで Teresa Fungをを検索すると,同じような内容の発表論文がズラリと並びますから,まあそういう宗教的啓示を受けた人のご託宣だと思っていればいいのではないでしょうか.

      厳密な比較試験が行える糖尿病薬でさえ,いまだ総死亡率との関係が証明されたものはほとんどない(メトホルミンと アカルボースくらい)なのですから,食事療法と総死亡率との関係が見出されたと言われれば,『なるほどすごいですね. はい,お帰りはあちら』と思うことにしています.