事実 考え 感情[2完]

前回の記事では,医師と患者がこう会話していました.

医師『間食は多いですか?』
患者『あまりしません. 健康に気を使っているので』

医師『食べすぎることはありますか』
患者『腹八分目を心掛けています』

医師は,患者のこの言葉を聞いて,安心していました.

ところが....

上記の会話で,誤解が生じているのを お判りでしょうか?

この会話の問題点は,医師が具体的なこと,つまり「事実」を何も尋ねていないことです.したがって,患者の方も「そうあるべきだと思っている」という「自分の考え」を答えています.別に嘘をついているというのではなく,普段の自分の心構えを答えただけです.しかし これでは 治療の指針とすべきことは何も得られません.

さらに 医師も患者も それぞれの主観で話しています.患者の『腹八分目』と医師の考える『腹八分目』とは同じとは限りません.『間食が多いのか』も,それぞれの 「自分の考え」 にすぎません.

もしもこう聞いてみたらどうでしょう?

医師『間食は多いですか?』
患者『あまりしません. 健康に気を使っているので』
医師『間食にはどういものを選びますか?』
患者『甘いものは避けて,健康的なものを選んでいます』
医師『それはいいですね. ところで直近の間食ではいつ何を食べましたか?
患者『....今日の午後,ショートケーキとアップルタルトを...』

平野先生は,このような例を挙げて,誰であっても 「事実」と「考え」,そして「感情」とは,それぞれ別個なのが当たり前だと述べています.『考え』というと,客観的な視点と思いがちですが,本人が客観的な真理と信じていることでも,第三者からみれば『思い込み』にすぎないということは多いでしょう.頑固な人は,なんと言われようと『考え』=『思い込み』を曲げません.本当に客観的ならば,論理的説得が有効なのですが,なにしろ「思い込んでいる」人は頑固なので,「思い込みだ」という指摘すら受け付けません.

(C) mono777 さん

だからこそ,医師は患者の『感情』や『思い込み』をいくら本人から語られても,それは聞き流して,ぶ厚い主観の幕の後ろに隠れている『事実』だけを把握して,的確な診断を行うべきだ,それには必ず患者に 事実だけを質問することが重要と強調しています.

ただ事実だけを詳細に追及しようとすると,警察の取り調べがまさにそうです. しかし,あのやり方で医師が患者を「尋問」するわけにもいかないので,そこをどう工夫するか,というのがこの記事の趣旨です. 医師も大変ですね.

わかっちゃいるけどやめられねぇ

思い込みとしても『本来こうあるべきだ』と思っている「考え」と,実際の行動=「事実」とが乖離していることは,ほとんどの人がそうでしょう.煩悩だらけの衆生は,それが当たり前です.だから,「事実」「考え」「感情」は誰でもバラバラなのです.

すべて理想通りにせよと言われたら一歩も進めません.気楽にいきましょう.でも,時々は自分の中で「事実」「考え」「感情」を冷静に分解してみるのもいいことかと思います.

『スーダラ節』
(C) ユニバーサル ミュージック ジャパン

【完】

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    私は2ヶ月に1回の割合で検査のためにクリニックに行きますが、毎回、言いたいことが半分も伝わっていないような気がしています。
    高々、5分あるかないかの診察時間の間にこの2ヶ月間のあれやこれやを端的に伝えるのは非常に難しく、もどかしいです。医師も特に興味がありそうには思えません。

    主治医は、いつもHbA1c7.0が糖尿病(治療)のコントロール目標だから問題ない(前回、5.8)と口癖のように言うのですが、心の中では「私の生涯の最高値は6.9なんだけど。。。」と思ってしまうのです。

    じゃあ、元々問題ないじゃん。

    それなら私に何を目標に治療せよと言っているのでしょう?と言う論理的に矛盾した疑問だらけの会話になっているのです。医師の意向とは関係のない自分なりの目標はありますが。
    医師も突っ込みどころがないのか、最近は、ちょっと高めのLDL-Cに突っ込んできます。本人はまったく気にしていないのに、せっかく来た患者をてぶらで帰らせてはと言う心遣いでしょうか。

    以前に微小な眼底出血痕があった事実も伝えているのに、「7.0以下だったら問題ない」と言われましても事実に反するとしか言えません。
    プロなんだから明確に指導をお願いします、と言いたくなります。
    ガイドライン自体が明確じゃないのに無理かw

    私のように医師の言う事を斜めや裏から聞く患者ならいざ知らず、これが一般的な糖尿病専門医の治療方針なら、普通の糖尿病患者が可哀そうです。明確な指示が出せない上司の下でうろたえる部下の様相です。プロジェクトは見事に失敗し、糖尿病患者は意に反して増加していくのでしょう。

    次回、この事実をやんわりと突っ込んでみましょうかw
     といつも思ってるんですが、あわただしい診療時間に忙殺されて忘れてしまうのです。

    意思疎通は大変難しいと痛感しています。

    • しらねのぞるば より:

      > 「7.0以下だったら問題ない」と言われましても

      「患者に難しいことはわからないだろうから」という考えから,あえて単純化してそう言っているのか,それとも 本当にそう信じている『マニュアル一辺倒』派なのか,どちらかでしょうが,後者だったら ちょっと困りますね.

  2. とむ^^2型糖尿病 より:

    しらねのぞばるさん 今晩は(⌒∇⌒)

    医師との言葉のやり取りは難しいですね。私なんかほんとに伝えたい事の半分も理解してもらっていません。朝の血糖値が高いことを伝えたら『そうだね~~でも』『へモグロビンA1cが6.0だから大丈夫』で撃沈しました。(;´д`)トホホ
    で、7日間の数値です。

          3:00      朝食前
    12月4日   95       119
      5日   112       96
      6日   101       116
      7日   91       144
      8日   98       148
      9日           120
      10日           132
    夕食19:00~19:30 間食無し 食後運動30分 23:睡眠
    この様な結果になりました。 

    • しらねのぞるば より:

      > 伝えたい事の半分も

      期せずして お二人のコメントに まったく同じ言葉が並びましたね. 医者との会話が成立しないのはなぜなのか 考えてみます.

  3. かかか より:

    難しいですね。
    専門医という理由で赴くわけですが、なぜか「血糖値やHbA1cが高いね〜」「では第一選択薬のメトホルミンで…」と言った具合だったりします。なぜ高いのかは二の次というか。もしかしたら別の内分泌の疾患から二次的に血糖値も上がっているのかもしれないですよね。
    医師から見たら、検査値や病状の軽い人には重きを置いていないのでしょうが、行く方としては普通じゃないから行ってるんですけどね。

    • しらねのぞるば より:

      以前の記事にも書きましたが,糖尿病専門医は人数が少ないので,普通は一般内科医で手に負えなくなったら,専門医に紹介されるというルートがあります. ですので,専門医のところには重症患者が集まりやすいのです.
      すると 普段から,HbA1cが10とか15とか,足が病変して壊疽寸前だなどと言う状態の患者を見慣れている専門医としては,「HbA1cがその程度? 大したことないよ」となってしまうのでしょうね.
      そういう意味では,軽症の人ならば 専門医よりも生活習慣全般を見渡して総合的に相談にのってくれるような医師がいればそのほうがいいかもしれません.

  4. highbloodglucose より:

    興味深いのは、西村さんもとむ^^2型糖尿病さんも、あと夕張メロンさんも、みなさんHbA1cが6%以下の人たちということです。そして、知りたいのは、今よりさらに改善するためにはどうすればいいか?ということのようです。それに対して、医師になかなか意図が伝わらない、思うような回答がない、という不満を感じておられるようです。

    わたしが思うに、医師は答えを持っていないのではないでしょうか。だから答えられない。

    日本糖尿病学会のガイドラインを隅々まで読んでいるわけではないのでイメージですが、合併症リスクが高いとされるHbA1c 7%以上から6%台に下げることについては、投薬も含め指導方法がしっかり記述されているけれども、リスクが低い患者群をさらに改善させる指導方法というのは記述がないように思います。また、予備軍が2型糖尿病に進展しないように指導する方法は記述があっても、予備軍がさらに健常人に近づくための指導法は記述がないと思います。
    つまり、今より悪くなることを避ける方法は明確だけれど、それ以上に改善するための方法は全く確立されていないということではないでしょうか。
    だから、医師に尋ねたところで答えは返ってこないのだと思います。

    HbA1c 7%未満だと合併症リスクが低いというのは統計のデータであり、中には西村さんのように集団から外れた現象を示す患者も少数ながら存在すると思います。そこを拾って、患者個別に指導できるかどうかは医師の力量にかかっているような気がしますが、ただ、西村さんの場合はすでにHbA1cが6%未満と明らかに低いので、医師も真剣には考えてくれないのかもしれません。

    こうやってネットで情報を得て日々の努力を惜しまない患者さんは治療目標が高すぎて、医師へのハードルが高くなりすぎているような気がします。もちろん、いいことなのだけれど、医師の方にしてみたらその期待に応えるのはかなり大変だろうなと、ちょっぴり同情してみたりします。

    わたしのように、スタートがHbA1c 15%、随時血糖値700 mg/dlオーバーといった患者が、インスリンを使いつつ3ヶ月後にはHbA1c 6%台にまで改善すると、医師としては「よっしゃ!」という感じでしょうね(今から思うと、少し性急すぎたのではと感じますが。急激な血糖値変化のせいで、網膜症の症状が出たように思います)。
    でも、減薬しつつ今以上HbA1cを改善したいとわたしが希望したら、多分、医師は内心うんざりしながら「知らんがな」と思うんじゃないでしょうか。

    理想は、患者と医師の会話が「教えを請う者」「教える者」の関係ではなく、お互い試行錯誤する対等な者同士で軽く「あーでもない、こーでもない」と会話のキャッチボールができることですよね。
    そういう雰囲気になればいいなと思います。

    • しらねのぞるば より:

      あちゃー!!やられた!!

      私が[その2]で書こうと思っていたことを,しかもそれ以上のことまで うまく表現されてしまいました.

      こら さっぱりわやや,このまま記事にさせてください m(_ _)m

    • 西村 典彦 より:

      HbA1cの厳格コントロールは、かえって死亡リスクが上がると言う研究は専門医なら知っているはずですが、これはあくまでも低血糖リスクとのバーターであって7.0なら大丈夫と言う事は無いのです。もしそうならこんな研究自体が無意味ですから。
      したがってインスリンも経口薬も使用していない私のような低血糖リスクが限りなくゼロに近い患者にはもっと厳格なコントロールを適用する事は何も問題ないはずです。本人が希望するのであれば。
      糖尿病のバイブル「糖尿病の解決」の著者であるバーンスタイン医師は、そのようないい加減なコントロールの押し付けは患者に対するレイプだと表現し、インスリン治療であっても厳格なコントロールで健常者と同じ数値を目指すべきだと言っています。
      そこまですべきかは、意見の分かれるところかもしれないですが、少なくとも7.0の意味はしっかりと理解した上で指示してもらいたいのです。もしかして、理解していないのではと疑いたくなります。

      • しらねのぞるば より:

        > 7.0なら大丈夫と言う事は無いのです

        はい,7.0以下なら合併症発生確率は非常に低いというだけであって,必ずゼロだということではありませんね.Kumamoto Studyにて HbA1c6.5%未満で,合併症発生がゼロだったので,これ以下なら合併症が起こらないと主張する方もおられるのですが,これはKumamoto Studyが,参加者110人という小さな集団だったからにすぎません. より規模の大きい調査,例えば DCCTなどでは,低いHbA1cでも少数の合併症発生は見られるので,6.5%に明確な閾値があるわけではありません.

  5. 夕張メロン より:

    皆様の コメント 大変 気になり、
    私の現状をお伝えさせて頂きます。
    私は 現在 Hba1c 5.9 です。
    医師の目標とする数値は、
    12月 受診時までに 5.5以下を目標とする、と言う事です。
    5.5以下にするためには かなりの努力が必要であると思いますが、取り組んでみると、努力だけでは解決しない事だと痛感しております。
    では 5.5以下にする方法を具体的に 教えて頂きたい。
    指導して頂きたいと言う強い気持ちがあり、今回の様に 血糖値を測り 資料を揃え 出向く準備をした次第です。6以下だから 合併症がでない、だから良いではないか?と言う問題ではありません。

  6. ルバーブ(帰国中) より:

     西村さまのコメントのバーンスタイン博士の指摘、<厳格なコントロールで健常者と同じ数値を目指すべき>について。
     我が家のT2D夫は10年前発覚以後、糖質制限とメトホルミン500mg服用で大体HbA1c5.5後半を維持して来ました。しかしここ1年で急速に白内障が悪化し、眼底検査が不能になり、白内障手術が必要になりました。白内障の原因は老化ですので、血糖値コントロールが直接影響するわけではないと思いますが、58歳では早すぎるように思いました。なので今は5.4以下を目指すように方向転換。以前よりしている、しらねのぞるばさま提案のアレンジで就寝前に500mgに加えて夕食の3時間ほど前に500mgを服用。就寝前の服用がとても効いているので、夕食前のも効くのではと期待しているところです。

    • しらねのぞるば より:

      1年で白内障が進行するとは ご心配ですね.HbA1cがほとんど変化していないのであれば,たしかに血糖値コントロールとは別の因子かもしれませんね.

      メトホルミンによる 頓服的な糖新生抑制効果は,もともと起床後のジワジワとした血糖値上昇を抑え込むために見出した方法ですので,食後の急激な血糖値上昇にどれくらい効果があるのかは 私にもわかりません.結果がわかれば教えてください.

      • ルバーブ(帰国中) より:

        基本糖質制限ですので、食後の高血糖は回避できていると想像しますが、それでは5.5程度に留まり、期待する5.2から5.3は叶わないと思い、服薬を追加することにしました。結果は数か月後になりますが、必ず報告させていただきます。