暁現象 → 追加です

10月最後の記事:『暁現象 続編[3完] 呼吸を整えて』について,「かかか」様からこのコメントをいただきました.

私も、他のホルモンとの相互関係について興味を持ち、納光弘先生の「インスリン拮抗ホルモン」のグラフを覗いてみたのですが、アドレナリンやコルチゾールが出てきて、とても繊細で解読?できませんでした。
ただ血糖値が上がったらインスリンで下げる。何が邪魔をするのか、これだけでいいんですがね…

かかか 様

そうです. 空腹なのに血糖値が上がります.

  • なぜこの時にインスリンが出て血糖値を下げてくれないのか,
  • あるいはインスリンは分泌されているのだが血糖値を抑えきれないのか.

ただ 起床直後は血糖値が正常であった(つまり 普通の「暁現象」はなかった)のだから,後者は考えにくいでしょう.

そこで思い出したのが,私が以前この現象を経験した時の血糖値の動きです.

起床時の血糖値は108でした.ここから午前中 まったく食事をとらないのに血糖値が120にまで上がりました.

ところが,別の日に同様の現象があったので,ごく少量の糖質(~10g)を含む食事(=大豆/ふすまパン)を食べてみたところ,一瞬血糖値が上昇してすぐに起床時よりも低い血糖値に落ちたのです.

後者はインクレチン効果

ブドウ糖を経口摂取した場合と,静脈に直接注射した場合とでは,後者の方が血糖値が上がること,またインスリン分泌量を見ると,同じブドウ糖量でも 経口摂取した方が(又は 静脈ではなく腸に直接注入した方が)後者の方が多いことが見出されています.

J Clin Endocrinol Metab 1964;24:1076–82

インクレチン効果と呼ばれるこの現象は,小腸上部及び下部がグルコース濃度に応答して,それぞれGIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide)と GLP-1(Glucagon Like Peptide-1)とを分泌し,これらが膵臓β細胞に到達すると,インスリン分泌を(時に過剰なほど)促進するものです.

つまり上記 2つの結果の差は,

  • 何も食べないままでは,当然消化管に何も入ってこないのでインクレチンは誘発されず,
  • 少量でも食物が入ればインクレチン効果が働いた結果である

と解釈されます.

だとすれば この差は何か

ここで,再び 午前中の空腹血糖値上昇のグラフに話を戻します. ホリデー様の場合と私の場合,そして正常人では空腹ならば血糖値は上昇しないはずですから,それらをグラフにするとこうなります.

この上昇の原因は,先日の記事に書いた通り 朝のホルモン分泌などによるものだとして,では正常人では血糖値が上昇せず,ホリデー様と私では上昇(*)したのはなぜか,また二人の上昇の傾きが違うのはなぜなのでしょうか.

これがグルコース感受性なのかも

「かかか」様のご指摘通り,じわじわとであれ血糖値は上昇しているのですから,それに応じて膵臓がインスリン分泌を少し増やしてくれればいいはずです. そのわずかな血糖値上昇に膵臓が応答しない,つまり インクレチン効果がまったく関与しえないこの状況での血糖値上昇の【傾き】,すなわち グラフの緑の線こそがグルコース感受性を反映しているのではないかと考えられます. 逆にこのことから,この現象を経時的に観測していれば,自分自身の「グルコース感受性」を純粋に数値化できるのではないでしょうか.

(*) なお,この考えが正しければ,ホリデー様の場合で血糖値上昇が125くらいで頭打ちになり そこでほぼ一定になるのは,ようやく血糖値がそのレベルに達したのを膵臓が感知し,インスリンの基礎分泌を始めた(ただし 更に下げるほどの増量ではない)のだと説明がつきます.

もっとも難しい問題

ここまで考えてみて;

痩せ型で糖尿病になった人は.なぜそうなったのか,今 何が起こっているのか,これからどうすればいいのか

これを追求していける手掛かりかなと感じました.

生データこそが重要

医学情報は,海外の文献はおろか,日本の糖尿病医学文献を見ても,この問題については ほとんど有用な情報がありません.

幸い,サラリーマン生活とはおさらばして,考える時間だけは十分にとれるようになったので,数少ない日本人のデータを収集・整理して,それこそ 「第一の人生の」メインテーマとして追及してみようと思っています.

その点で,多くの人のブログでもよくみかける 生のデータは実に参考になります. 医学文献では どうしても,「多くの患者の平均値はこうである. したがって….」となってしまうので,ほとんど参考になりませんから.

コメント

  1. かかか より:

    ぞるば様

    ありがとうございます。
    以前、病院で「何かを食べると、それに反応してインスリンがピュッピュッと出る」と。インクレチン効果ですね。

    新糖生でじわじわ上がってしまい、それならばそれを下げるインスリンが出てくれていいのだが応答なしで出ない。また、何かを食べてそれに上手く反応すれば膵臓が応答しインスリンが出るのだが、それが応答しなかったり。これこそが耐糖能異常なんでしょうね。

    生のデータ
    参考になるようでしたら、いくつかあるのでお送りしようと思うのですが。

    • しらねのぞるば より:

      >いくつかあるので

      差支えなければ,「お問い合わせ」フォームからお送りください.
      また コメント欄に,[非公開]と断って記入いただいても構いません.

      どちらの場合も公開されませんし,私も匿名情報として個人情報は削除して取り扱います.

      • かかか より:

        パソコンからの送受信可にしておいた方がいいですか?
        コメント欄に「非公開」とした場合、もし自分の書き込みに不備があってぞるばさんから質問があった時に、届かないのでは?と。

        • しらねのぞるば より:

          あ,プロバイダの「迷惑メール フィルタ」サービスを利用されているのでしょうか?

          であれば, info@shiranenozorba.com を送受信可能の許可アドレスにするか,又は @shiranenozorba.comからの受信を許可設定にしたうえで,問い合わせフォームからお送りください.
          なお,お問い合わせフォームへの送信は,直接 info@shiranenozorba.com にメールを送信するのと同じです.

          • かかか より:

            1時間前にお問い合わせから送信したので、届いていたら知らせてください。

          • しらねのぞるば より:

            かかか 様;

            問い合わせフォームに たしかに着信しています.
            折り返し 返信しましたが,受信できたでしょうか?

  2. あじふらい より:

    自分の場合、暁現象とはなぜかあまり縁がないんですけども、これって食べずに放っておいた場合上がったまま普段のところまでは戻らない感じなのでしょうか。
    朝が関係してくるとなるとメロトニンの分泌なんかも影響多いのかなーとか思いました(`・ω・´)
    太陽光遮断した部屋で時間感覚狂う人ほど現象が出るような感じになりそうな気がします。

    • しらねのぞるば より:

      >食べずに放っておいた場合
      個人的な推測ですが,どこまでも上がり続けるということはないと思います. 膵臓のグルコース感受性が鈍っていたとしても,どこかの血糖値レベルでインスリン分泌が始まるはずですから.ホリデー様のデータで125あたりで頭打ちになっているのは,そういう現象だと思っています.

      >朝が関係してくるとなるとメロトニンの分泌
      松果体ホルモンのメラトニン(melatonin)ですね?
      私は詳しくないのですが,ざっと文献を検索したところでは(すべて動物実験ですが),メラトニンはβ細胞からのインスリン分泌を抑制する方向に働くようです. ただ新生児から5歳くらいまでの小児がもっとも分泌が多いということは,『寝ている間も成長する』ので 夜間血糖値を上げるためかもしれません.

  3. くつわ より:

    参考になるか分かりませんが、私の場合は、
    5~6時に起床し、血糖値が99~110で
    9~10時病院で、血糖値が120~140になりました。
    (測定方法は異なります)

    メトホルミンを飲めば起床時と変化ありません。
    DPP4阻害薬(テネリア)も試してみましたが、
    当然、効果はありませんでした。

    もう1点、記事とは関係ないのですが
    他の方の様子を拝見していて
    「加齢型」の糖尿病の中には性差もあるのではと感じています。
    しらねのぞるばさんがおっしゃる通り、
    病院や医師に丸投げではなく、
    患者本人が、自分に合った治療を考えるべきなんでしょうね。

    • しらねのぞるば より:

      >5~6時に起床し、血糖値が99~110で
      >9~10時病院で、血糖値が120~140になりました。
      SMBGと静脈血漿という差はありますが,ほぼ起床時に比べ 20~30の上昇ですね.
      この上昇幅の経年変化,およびHbA1cとの相関はあるでしょうか?

      >「加齢型」の糖尿病の中には性差もある
      本当にそう思います. 一般に女性は 生理現象や,更年期後のコレステロール上昇のように,体内ホルモンの変動が男性よりもはるかに大きいのですから.

      • くつわ より:

        このデータは今年の1月から5月になります。

        糖尿病と診断されたのが昨年9月で、
        自分で測定し始めたのは昨年12月からですので
        経年変化は分かりません。

        HbA1cは6~6.4でした。

        お役に立てるか分かりませんが、参考まで。
        今後の考察も楽しみにしています。

        • しらねのぞるば より:

          了解です.ありがとうございました.

          その後の変化などありましたら,また お教えください.

  4. ホリデー より:

    ぞるばさん
    私の状態も取り上げていただき、深謝です。
    ぞるばさんのような根拠のある考察でない勝手な考えを記事にしてみました。お笑いください。
    グラフの画像、拝借して使わせていただきました。ご容赦ください。

    それともう一点、最近、自分のブログが何かの(誰かの)役に立つのだろうかと、記事更新に迷いを持っておりましたが、血糖コントロールのデータをアップするだけでも、何かの役には立つかもしれないとちょっとやる気が出てきました。
    ありがとうございます。

    これからもよろしくお願いします。

    • しらねのぞるば より:

      この記事には反響が大きくて 驚いています.
      この現象を経験した人は 結構多いようです. にもかかわらず,書物やネットには この現象が何なのかきちんと解説したものはありません.
      ほとんどの医師は(自分が糖尿病でない限り)この現象を知らないのではないかと思います.

  5. 西村 典彦 より:

    「痩せ型で糖尿病になった人は.なぜそうなったのか,今 何が起こっているのか,これからどうすればいいのか」

    このお題にチャレンジすべく、「痩せ型の糖尿病の発症機序は、脂肪肝によるインスリン抵抗性が原因で、長期にその状態を続けると発症する」のではと仮説を立ててみました。
    仮説では、非肥満型糖尿病のの発症リスクと回復のマーカーとしてALT/AST比に注目しています。

    私は過去に軽度脂肪肝を指摘されることがよくありましたが、肝機能の値は単独では正常値なので放置していました。
    しかし、糖質制限1年10ヶ月で体重も6~7kg減量しBMI22以下、γ-GTPは16まで下がり、ALTもかなり変化していますので、脂肪肝は解消し、肝機能は完ぺきだと勝手に思い込んでいました。ただ、耐糖能の改善は微妙です。きっとインスリン抵抗性、分泌遅延は思ったほど改善していないのでしょう。

    そこで過去の検査データを引っ張り出してALT,ASTについて、データが残る限り並べてみると、糖質制限開始までずっとALT>ASTだったことがわかりました。
    ALT、ASTが単独では正常値でもALT/AST比は1以上で高値であり、肝機能は正常ではないと判断できます。
    因みに江部先生も2019年10月29日のブログで公開されていますが、現在1.0、ギリギリ高値です。
    http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-date-201910.html)。

    現在はALT<ASTではあるものの改善は微妙(7月0.86、9月0.83)です。しかも1.0未満を維持しているのは最近の半年ほどです。肝臓は完ぺきには回復していないように思えてきました。
    この値をもっと改善できれば、そして長期に維持できれば、インスリン抵抗性、グルコース感受性は改善するのでしょうか。私のn=1データとしては、今のところ仮説を忠実に再現しているように思えます。

    ALT/AST比と糖尿病発症の関係についての論文、データなどは存在しないのでしょうか。

    以下は、私の検査値です。

    検査日 ALT AST HbA1c 空腹時血糖値
    2013年6月 32 > 21 107
    2014年5月 41 21
    7月 35 20 120
    2015年5月 38 20 6.4 119
    6月 37 20 113
    8月 32 19 6.8 128
    2016年5月 33 21
    6月 40 21 135
    6月 40 28 6.1 107
    2017年6月 33 22 116
    12月 44 21 6.9 137 糖質制限開始
    2018年3月 27 20 5.9 124
    6月 26 20 105
    8月 ≦ 5.6 86
    9月 21 22 5.5 105
    12月 5.6 95
    2019年2月 34 > 31 5.5 104
    4月 23 ≦ 28 5.6 92
    6月 20 24 5.4 106
    6月 19 19 97
    7月 19 22 5.8 101
    9月 15 18 5.6 85

    • しらねのぞるば より:

      ありがとうございます.
      このデータを拝見して,自分や他の方のデータとも合わせて整理すべく,さきほど 第1弾の記事を投稿しました.
      記事にも書きましたように,肝臓関係は糖尿病発症・進行に密接に関連しているはずなのに,特に日本では 極度に縦割り 専門化しているためか,糖尿病学会では『肥満=糖尿病 の結果としての肝機能悪化』という観点ばかりなので,そうではないことを示したいと思います.

  6. かかか より:

    ぞるば様

    届いています。昨日メールから返信を送りました。ありがとうございます。