すべては 平衡バランス
血糖値の変動は,インスリンとグルカゴンという逆方向のホルモンによってつり合いがとられているというのが従来の説でしたが,実際にはそれほど単純なものではなく,脳をはじめとする体内の各種の臓器の緊密なネットワークで恒常性(ホメオスタシス)が保たれているというのが,最近の説です.
とすればここまで見てきた通りの脳内ホルモンも,また血糖値に影響するでしょう. 前回見た通り,セロトニンやドーパミンはリラックスして心が安らぐ,つまり血糖値が落ち着く方向なのに対して,ノルアドレナリンは 心身ともに戦闘態勢になる,つまり血糖値が上がる方向のホルモンです.
朝のホルモン
夕方になると,オジサンは縄のれんをくぐって ホルモンで一杯やる習性がありますが,では人が睡眠から目覚めた場合は,脳内ホルモンはどうなるのでしょうか.
実際に 目覚めてから 午前中のこれらのホルモンの脳内での濃度変化を測定(*)すると;
(*) ただし,このデータは(人間では測定が不可能なので)動物実験,多分 兎での測定と思われます.
一見してわかるのは,これらの3つの脳内ホルモンの午前中の動きは非常によく似ていることです.『朝だっ!起きろ』と気合を入れるノルアドレナリンも,『今日も一日愉快に行こう』というドーパミンも,『せくな 焦るな,着実第一』というセロトニンも,見事に協調して一日の活動開始のスターターとなっているわけです.
ピーク時刻も一致しています. 実際これらのホルモンは1日の分泌総量の内,60~70%がが午前中に分泌されているようです. 『大事な仕事は朝の内に』というのは,一応根拠があるのですね.
もしかしたら
で,以下は私のまったくの推測ですが(と言いつつ,実はそれを裏付けそうな文献をひそかに探してますが),インスリンとグルカゴンとのバランスが崩れると血糖値が乱高下するように,朝の脳内ホルモン分泌も,そのバランスが崩れると『わけのわからない血糖値の変化』を示すのではないでしょうか.
中国の人が朝 公園に集まって,滑らかに体を動かす太極拳をやっているのは,実は 緩やかな運動をすることにより,これらのホルモンの位相を合わせて 心身を同時に整えるという作用があるのかもしれませんね.
ただこの空腹なのに上昇する血糖値は,食事を摂っていないのですから,体内で作られた(糖新生された)血糖が源泉なのは間違いありません(筋肉中でグリコーゲン分解が起こっても,血液の方に戻ることはありません).
【完】
コメント
いつも分かりやすい記事ありがとうございます。
まさに、この起きてから空腹のままだと血糖値が上がるタイプです。
病院での検査に困り、メトホルミンで対処しています。
今回の一連の記事も楽しみにしていました。
そして、バランスが崩れているならセロトニン不足だろうなーと。
性格的にも年齢的にも心当たりがありすぎます。
改善策を探して実践してみます。
そして、裏付けの続報を楽しみに待っています。
最近は,血糖値に限らず,血圧なども 脳シグナルによるコントロールが存在するという説が 多くなっています.
まとまり次第 今後も続編を出すつもりです.
> メトホルミンで対処しています
私の経験でも,メトホルミン250mg 1錠で簡単に収まりました. ですから 大した血糖上昇圧力ではないのですが,これが逆に 『治療の対象になるほどではない』となって,研究されない原因なのでしょうね.
私もセロトニン不足は非常に感じます。
糖尿病の診断を受ける前、不安障害で心療内科を受診しましたが、両者にセロトニンと言う共通のホルモンが介在する事で同時期に発症する事の説明がつきます。
通院や社会生活に支障をきたす事はなくなりましたが、現在もセロトニン不足(軽い不安感)は感じ不快ですが、有効な改善方法が分かりません。これが解決できれば糖尿病のコントロールにも良い影響が得られると思います。
> セロトニン不足(軽い不安感)
家を出て駅に向かう時に,「あれ? 玄関の鍵をかけたかな?」という不安は,私も経験します.
こういう 軽い不安を解消する方法は,鉄道員が行っている『指差呼称』だそうです.
玄関の鍵をかけたら,それを指さして,「施錠よしっ!」と大きな声で確認します.
不安の潜在的な原因が脳に残るのを防ぐ方法だそうです.
私も、他のホルモンとの相互関係について興味を持ち、納光弘先生の「インスリン拮抗ホルモン」のグラフを覗いてみたのですが、アドレナリンやコルチゾールが出てきて、とても繊細で解読?できませんでした。
ただ血糖値が上がったらインスリンで下げる。何が邪魔をするのか、これだけでいいんですがね…
> ただ血糖値が上がったらインスリンで
それがヒントになりました. 思い当たることがあります. ただ 図に描いたほうがわかりやすそうなので,記事にしてお答えします.