糖尿病医療学[5]

日本人でも米国型肥満糖尿病なら

日本人の糖尿病記事 にも書いたように,日本人でも 米国タイプの [肥満+インスリン抵抗性]の糖尿病がありますから,もちろん 【米国の】糖尿病医療学は有効と思います.つまり 行動心理学アプローチがそのまま有効でしょう.

ただし,石井均先生の著書『糖尿病医療学入門』で解説されている手法,すなわち 患者を肥満から脱出しようという気にさせるカウンセリングを通じて;

自己分析 → 熟考 → 試行 → 決心 → 実行

という,いかにも100%アメリカンの行動心理学の手法は,そのままでは日本人に適用できないでしょう. 日本では心理療法士によるカウンセリングは,まだまだ普及していません.フロイト時代から精神分析・心理療法の伝統がある米国とは違うのです. カウンセリングをする方もされる方も不慣れです. 米国スタイルをそのままやろうとしても,患者が反発してしまうかもしれません. 糖尿病が米国型だといっても,その対処法まで米国流でいいとは限らないのです.

患者のモチベーションという視点

この点について,本年1月の第22回日本病態栄養学会 学術集会 のセミナー(MS-2-1)で,関西電力医学研究所 医学教育研究部長の東山弘子先生が,非常に 深い内容の講演を行っていました.

(C) acworks さん
(C) kakecco さん

「深い穴に落ちてしまった 」 という心理状態にある患者に,いくら 穴の上から(憐れみをもって)のぞきこんで励ましても,あるいは医師が専門用語を駆使して「こうするのが正しい」と声をかけても患者は救われません.深い穴に落ちた(と思っている)患者の目に映るのは ポッカリ空いた穴の上からのぞき込む顔だけなのですから.大事なことは 患者と同じ高さと目線で声をかけることなのです.

では 日本型の糖尿病には?

『日本人は全員 インスリン分泌不全? 』 に書いたように,日本人はそもそも健常人の段階から,インスリン分泌が非常に少なくてすんでいる人が多いです.この人たちが糖尿病を発症しても,肥満でもないし 極度なインスリン抵抗性があるわけでもありません. しいて言えば,(インスリン感受性ではなく)グルコース感受性 が低下しているだけです.

このタイプに,『行動を振り返りなさい』『決心しなさい』と言っても,本人は何をどう決心すればいいのでしょうか? 『肥満解消さえすれば 救われるのですよ』と言えばいい欧米型糖尿病医療学はここでは意味をなしません.まして,ろくに会話すらせず,机の上のモニター画面上の検査数値だけをみて 「あなた また悪化したね」と告げるだけでは ほとんど逆効果でしょう.

欧米の糖尿病医学にはまったく見えていない,この日本特産の糖尿病には,患者は行動をどう変容しろというのでしょうか?

[6]に続く. (どこまで?)

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    健康診断などでの私の糖尿病発覚までのMAX値は以下の通りです。

    BMI     :24.2
    中性脂肪   :100
    HDL-C    :82
    LDL-C    :129
    空腹時血糖値 :120
    HbA1c    :6.9

    極端な肥満でもなく、血糖値関連以外は正常なのでなめてました。

    料理に砂糖はほとんど使わないし、〆のラーメンも食べない、間食の習慣もない。家族に糖尿病患者もいない。

    こんな優等生が糖尿病なんかなるわけがない。いずれ、下がるだろうくらいに思ってました。

    しかし、体の不調は年々増えて、手のむくみや指関節の痛み、整形外科に行ってみても気休めにしかならず、少しずつ悪化。心療内科のお世話にも。趣味のスキーでも極端なエネルギー不足を感じるようになっていました。今思えば、糖エネルギーが効率よく使えなくなっていたのですね。

    しかし、まだ、この時点では年のせいかと思い(いや、思う事にしたと言うのが正しい表現ですね)、「糖尿病」の事は忘れようとしていたように思います。

    ある日、別件で病院に行くことがあり、血液検査をした結果、HbA1c6.9、血糖値がいくらだったか記憶があいまいなのですが、140(随時血糖)を超えていたと思います。
    専門外(脳神経外科)の医師ですが、「これ、糖尿病と同じだよ」と言われ、なぜかこの時ばかりは、その言葉を素直に受け入れてしまう自分がいました。
    不思議です。今まで、屁理屈をつけて無視してきたのに。はっきりと「糖尿病」と言う言葉が医師の口から出たことは少し、ショックでもありました。
    そして、翌日から(当日は病院の帰りにこの世の最後と思い、うどんを食ったの笑えるところですが)突然、スーパー糖質制限を始めるに至っては、なぜ、そんな心境になったのか、実践したのがよりによってスーパー糖質制限だったのか、今、考えても分かりません。きっとあの医師の言葉は「神のお告げ」だったのだと本気で思います。

    それから約2年、おかげで体調は人生で一番良いかと思うほど、見事に回復。
    日本人の「糖尿病」と言われている病態は、実は、アメリカ人のそれとはまったく違うもの、だから治療方法も違ってしかるべきで、ADAのガイドラインも日本人には適用できない部分も多いのではないかと言うのが約2年間、まじめに糖尿人を自覚して生きてきた結果、思う事でもあります。
    血糖値のみが異常値で見た目にも肥満と言うほどでもなく(軽度の脂肪肝は指摘されました)、食生活も乱れていなくても、日本人は「糖尿病と言われている状態」になるのだと改めて感じます。

    実は糖質制限半年後に、前もって糖質を150g以上4日ほど摂取して準備後にOGTTを受けましたが、2時間血糖値が259(1時間値263)で初めて確定診断となりました。インスリンは割と多く分泌されるものの遅い、かつ止まらない(空腹時から2時間値まで一直線に上昇)ようでOGTT4時間後に低血糖になってしまいました。
    糖尿病になる以前からこう言う体質だったのかどうか、今となっては分かりませんが、以前からペットボトルをがぶ飲みすると、体がだるくなる経験が何度もあったので、きっと、若い頃より血糖値の乱高下を繰り返していたと想像できます。

    • しらねのぞるば より:

      >BMI     :24.2
      >中性脂肪   :100
      >HDL-C    :82
      >LDL-C    :129
      >空腹時血糖値 :120

      私が産業医から『このままだと糖尿病まっしぐらだぞ』と警告された時点のデータとそっくりですね. ただし 私の場合はその時点での HbA1cは4.7(当時のJDS;NGSTでは 5.0)でした.それでも年ごとに空腹時血糖値がじわじわと上がっているのを見て,産業医は危険性を感じたのでしょう. この時点で指摘してくれたことを非常に感謝しています.

      >日本人の「糖尿病」と言われている病態は、実は、アメリカ人のそれとはまったく違うもの

      海外,特に米国の糖尿病に関する医学文献では,対象患者は ほぼBMI=30以上がほとんどです.
      日本ではBMI=30以上の人に限定して臨床試験を行おうとすると大変ですが,逆に米国では BMIが30未満で糖尿病の人という条件では,ほとんど患者が集められないようです.

      「似て非なる」という言葉がありますが,日本の非肥満者の糖尿病は,米国の糖尿病とは似ても似つかぬまったく別の病気だと思っております.

  2. かかか より:

    日本人の糖尿病。インスリン抵抗性や分泌遅延または不足が主な原因のようですが、グルコース感受性も大きな要因なのではと思います。
    グルコース感受性を確かめる検査はあるのでしょうか?負荷試験では、「インスリンの出が悪い」となると分泌不足という事になりますが、実際は、出す能力はあるものの、糖への反応が悪くてインスリンが出ない人も多いのでは?と。
    だからと言って簡単にSU製剤も怖いのですが…。

    • しらねのぞるば より:

      はい,グルコース感受性 glucose sensitivity は,文献を見ても,「理屈の上では存在することは間違いないだろう」という程度の認識で,地道に文献検索はしておりますが,これをまともに調べた研究はまだ見つけておりません.

      そういう段階なので,もちろん簡便な測定法はないようです.