糖尿病医療学[1]

これでいいのか

医師が 糖尿病患者の検査をして,結果が出たら 動物実験でもするように,マニュアルにしたがって各種の薬を投与し,次回の来院を指示して,『はい,次の方!』.

医師が糖尿病患者に対してできることは 本当にこれだけなのか,患者はそれで満足なのか,という問いかけです.

検査と それに対応した適切な投薬が糖尿病治療のすべてであるのなら,自動販売機のような『糖尿病自動治療機』が病院のロビーに設置されていて,腕を差し込むと,勝手に血糖値,ついでに血圧,コレステロールまで測ってくれて,ゴトンと薬が落ちてくる….いったいそれと何が違うのでしょうか.

(C) しろぎつね さん

糖尿病が完全解明されているのならともかく

糖尿病の発症から,改善/悪化の機序まで 完全に解明されているのならともかく,まだまだ不明なことばかり.血糖値はインスリンだけで決まるわけでもないし,グルカゴンで決定打が出たわけでもない.最近は血糖の恒常性には,脳も含めた多くの臓器間のシグナル交換(=つまり人体内部でのインターネット)が関与しているともいわれています.

要するに,糖尿病(だけに限らないが)について,現代医学は まだまだ何もわかっていないのですよ.

そうであるなら,医師と糖尿病患者との関係も,医師が神様のように患者に命令するという関係は間違っているでしょう.そういう関係は,「医師は完全であり,患者は無力である」という場合にのみ成り立つにすぎません.

たしかにそういう関係が成立する場合も多いです.交通事故で担ぎ込まれてきた大怪我の患者に,医師が救命処置や手術を行う,これはすべてが医師にかかっています,というか患者にできることは皆無です. せいぜい(意識があったとして)医師の質問に的確に答える,患者ができることはそれくらいです.

個人ごとの糖尿病

感染症,例えばコレラや赤痢にかかったとしましょう. この場合 患者の症状の度合いには個人差があっても,原因も症状の発生する機序(メカニズム)も全患者に共通しているのですから,『コレラ治療マニュアル』にしたがって,すべての患者に同じ治療を行えばいいでしょう.

では,糖尿病はどうでしょうか?
教科書には,2型糖尿病という,あたかも1つの病気があるかのように書いていますが,私はそうは考えません

100人の患者がいれば,100のそれぞれ異なる糖尿病があるのだと考えています.

たしかに日本人の糖尿病には,[肥満=インスリン抵抗性]を主体とする白人型の糖尿病のタイプに近いものもありますが,それとは あきらかにパターンが違う人も多いようです.

とすれば,教科書に書いてある『糖尿病』ではなくて,『今 目の前にある私の糖尿病』にどう立ち向かうのか,それを医師と患者が対等に考え,議論すべきだと思っています.なぜ,プロである医師と素人である患者が『対等』なのかと言えば,医師はその専門知識は高くても,基本的には 「平均値でみた糖尿病」しかしらないからです. 生まれてから一日も欠かさずずっと毎日診察してきてくれたのなら別ですが,「私個人の糖尿病は初見」のはずです. つまり

必要なのは「柴犬 一般論」ではなく,「我が家のポチ」の話なのです.

(C) ヒロシ(^^) さん

もちろん「病気は医者に任せておけばいい」「難しいことはわからない」,そういう人もいるでしょう.否定はしませんし,そういう人もいて全然かまいません.

しかし,お子様をお持ちの方,『子供の教育は,学校があり,教育の専門家である教師がいるのだから,学校まかせで構わない.親の知ったことではない』と考えますか? 自分の生命にかかわることは,子供の教育よりももっと重大とは思いませんか?

[2]に続く

コメント

  1. かかか より:

    そうですね。
    2型糖尿病と一括りにするのはどうだろうと思います。抵抗性、感受性、分泌不足と今では何パターンか分かれるものの、素人考えでは「パターンに限らずなぜメトホルミンが第1選択薬なのだろう」と思ってしまいます。長く使われていて、安全性も高く、安価であるからでしょうか…。私が知らない専門的な理由もあるとは思います。
    もっと研究が進み、いろんな事が解明されるといいなと思います。

    • しらねのぞるば より:

      大学病院でバリバリの医師よりも,いわゆる「町のお医者さん」の方が,「日本人の糖尿病は,米国人とは全然違う病気だ」という説には納得していただけることが多いです. 一人の患者を長期間にわたって診ているからでしょうね.

      ただ,メトホルミンは 「肝臓の糖新生を抑制して 肥満=インスリン抵抗性 に対する薬」とのみ理解されることが多いですが,実は筋肉など他の臓器のインスリン感受性改善にも効果があることが知られています. つまり最近にぎやかになってきた,メトホルミンの作用メカニズムの新説も,実は 肝臓以外でのメトホルミンの効果を説明しきれません.

      私は ひそかに「メトホルミンはインスリン感受性ではなく,【グルコース】感受性を高めている. だから全身の多くの臓器に作用できる」のではないかと考えています.もしそれが正しければ,いろいろなタイプの糖尿病に効いても不思議ではないです.

      • かかか より:

        グルコース増えてるよ〜というシグナルですね。糖が溢れていると体が認識していない可能性はありますね。分泌に問題はなく、肥満でもないのに血糖値が高い人などは、それが原因の場合も多いように思います。

        メトホルミンの副作用として、乳酸アシドーシスがありますが、頻度はごく僅からしいですね。