サンダーバード2号 出動!

健康診断の血液検査で,肝機能の検査結果が正常とされる範囲内に収まっていれば,脂肪肝などを指摘されている人以外はほとんど気にしていないのではないでしょうか?

しかし,肝機能検査で『正常です』又は『基準値です』と医師からお墨付きをもらっても,それだけでは安心できないという,梅雨時にふさわしい[どこが?]話題です.

小腸と肝臓と膵臓とはご近所付き合い

人体の中では,血糖値に限らず,酸素濃度,Na濃度….無数の生化学物質が常に一定に保たれています(人体のホメオスタシス=恒常性). このガラス工芸品のような精密な平衡状態に,生命の維持に必要とはいえ,食物から大量の糖質・脂質・蛋白質などがどどどっと流れ込んでくるのは,人体にとっては一大事なのです. サンダーバード秘密基地で,アラートランプが点いてサイレンが鳴るような緊急事態といえるでしょう.

(C) 今井科学

ところで『血糖値を下げるのは』の記事に書きましたように,食物からの栄養分を真っ先に吸収するのは小腸上部です(それより上の,胃や十二指腸は消化器官です).したがって 非常通報ボタンを押すのは,小腸上部であり,真っ先にその音を聞くのは肝臓と膵臓です. さっそく膵臓では膵液を出します.膵液はアミラーゼ,トリプシン,リパーゼとそれぞれ糖質・蛋白質・脂質を分解する三点セットです.それと同時にインスリンを分泌して,組織への糖取り込みを準備します. 一方肝臓では,これから血糖値が上がると予告されたのですから,ただちに糖新生をやめます. またこれから門脈を通じて流れ込んでくるブドウ糖をグリコーゲンとして貯め込む準備を開始します.

これら一連の動作をのんびりやっていたら,人体の平衡性はガタガタになってしまいます.だからこそ,この3臓器はすぐ近くに配置されています.

糖尿病が膵臓の変調ならば

糖尿病は,膵臓β細胞の機能が低下することにより発症するわけですが,それではご近所にいる肝臓は糖尿病とはまるで無関係なのでしょうか? 実はそうではないということは2000年頃から報告されています.

Hepatic Enzymes, the Metabolic Syndrome,and the Risk of Type 2 Diabetes in Older Men

肝機能指標である,ALT (aminotransferase;GPTと同じ)そして GGT(γ-glutamyltransferase; γ-GTPと同じ)が高めの人は糖尿病やメタボになりやすいという報告です.しかも,ALTやGGTが正常範囲を越えていたのならともかく,一応 正常基準値範囲内に収まっていても(よって健康診断では 注意も警告もされない),値が高ければ高いほど リスクが高まるとしています.

この結果は,上記論文だけでなく,以下 続々と同様の報告が出ているので 間違いないと思われます.

Hepatic ALT isoenzymes are elevated in gluconeogenic conditions including diabetes and suppressed by insulin at the protein level

血中ALT値とGGT値の同時上昇で2型糖尿病リスク増

あわてて過去の健診結果を見てみると

そこで過去20年間の健康診断結果から肝機能データを拾ってみました.

グラフを作ってビックリです. SPISE指数と同様に, ここでもまた 産業医から『このままでは糖尿病だぞ』と警告される10年以上前から,ALT,GGT,そして それらを合計した ALT+GGT はジリジリと上昇していたのです. しかし,どの時点でも検査結果は【肝機能 正常】だったのです(ALTは40以下,GGTは男性では70以下が『正常』).正常と言われて心配する人はいないですが,しかし この時期にこの変化に気づいていれば….とは思います.もっともその頃は糖尿病の知識はゼロですから,まず無理だったでしょうね.

皆様,膵臓だけでなく 肝臓にも目を向けましょう.

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