糖負荷試験は不公平?

糖尿病または 妊娠糖尿病かどうかの診断には,糖負荷試験が行われることがあります.75gの純粋ブドウ糖を含む炭酸水を一気に飲んで,その後の血糖値やインスリン量を測定するという試験です.

2時間後の血糖値が200以上であれば糖尿病,140未満であれば正常,その中間は 境界型と判定されます.

体格が違えば 血液量も違うはず

しかし,かねがね疑問に思っていたのですが,プロレスラ-のような巨漢でも,風が吹いたら飛ばされていきそうな痩せた人でも,同じ75gのブドウ糖というのは不公平ではないでしょうか?

男性イラスト (C) でお さん
女性イラスト (C) ゆりころまさん

人体の水分は 体重の約60%と言われています.

体重 100kgの人なら 60kg,つまり60 リットルの水分.一方 体重 40kgの人なら 24 リットルとなります.

この2人が同じ 75gのブドウ糖を飲むと,

単純計算で,ブドウ糖重量を体内水分体積で割ると,

体重 100kgの人は 75g ÷ 60リットル = 1.25 g/ リットル =1,250 mg/1000ml = 125 mg/dl

体重 40kgの人は 75g ÷ 24リットル = 3.125 g/ リットル =3,125 mg/1000ml = 312.5 mg/dl

つまり 痩せ型 40kgの人は のんだブドウ糖だけで 体内のすべての水分でブドウ糖濃度が312も上がる計算ですが,100kgの人なら それが 125の上昇で済むだけ. これはどう見ても不公平ですね.

子供にも飲ませるのか?

じゃあ体重12kgの子供にでも 75gものブドウ糖を飲ませるのか,と思って調べてみたら,小児の場合には

1.75g/kg体重(最大量75g)

という基準があるようです. 体重12kgの子供なら21gとなるので,少し安心しましたが,それでも 同じ40kgの体重なのに 小児なら 70g(=1.75×40)で,成人なら 75gとなるわけで,どうも釈然としません.

やっぱり そうですよね

調べてみると,過去の糖尿病学会で こういう報告が出ていました.

糖尿病既往のない 健康診断受診者 12,004名の糖負荷試験結果を分析したところ,2時間血糖値が140~200となったため,境界型と判定された人には体重50kg以下の人が明らかに多かった.この人たちは,単に 身体のブドウ糖distribution spaceが小さい,つまり体格が小さいというだけで発生した高血糖状態なので,糖尿病と判定する意義は低いと考えられる.

第60回 日本糖尿病学会 年次学術集会 1-P-555

この報告は 以前の記事でも紹介した 松本市の相澤病院 からです.それが科学的常識というものでしょう.しかし,体格に不相応なブドウ糖を飲ませて,糖尿病と判定し 投薬を迫るという「マニュアル一辺倒」の医者がいないことを祈ります.

コメント

  1. とある医学生 より:

    こんにちは、とある大学の学生です。
    以前授業で糖代謝の実験をしたのですが、私だけ75gブドウ糖試験で2時間後血糖値が境界線ギリギリの正常でした。
    私は、体重が50±1kg程度で痩せ型だったのでびっくりしました。
    思い返してみると、年に2回程度一時的ではありますが、視界のわずかな部分がボヤッとすることがあります。
    おそらく糖尿病予備軍であると自己判断しています。

    現在運動や食事の見直しを行なっております、しらねのぞるば様からのアドバイスや励ましの言葉をいただけると幸いです。
    これからもブログを拝見させていただきます^^

    • しらねのぞるば より:

      おはようございます.
      素人の私が 医学を学ぶ人に意見を述べるとはまことにおこがましいですが,私の経験がご参考になれば幸いです.

      「患者の主治医は 患者自身だ」とは すべての生活習慣病について当てはまるのでしょうが,特に境界型糖尿病ではそうだと思います. 境界型は原則として治療の対象にならないので 自分で自分をこまめに『診断』するしかありません.
      しかし逆に言えば やろうと思えば,毎日『通院』できるということでもあります. もっとも治療手段は食事・運動療法に限られますが. このことに気づいてから,私は「(ニセ)糖尿病専門医」になろうと覚悟を決めました.

      特におすすめしたいのは,健康診断・検査の結果をすべて保存しておくことです.ある瞬間では すべて正常とみえたデータでも,後になって長期の変化傾向を見た場合,「この時からすでに兆候はあらわれていたのだな」と気づかされることは,これらの記事にも書いた通りです.

      https://shiranenozorba.com/2019_11_19_hepatic-index-vs-diabetes7/
      https://shiranenozorba.com/2019_06_11_ins-sensitivity-2/

      私は大学が化学系学科だったこともあり,学生時代からかなり詳細な健康診断(*)を受けてきており,その時代から現在までのデータがほぼすべて揃っていて,これが大変役に立っております.

      (*) 有機則・特化則対象物質を取り扱う場合は,学生でも法定健診対象となります.