インスリン分泌不全 データ解析01

インスリン分泌不全とは何を指すのか

『インスリン分泌不全』とはそもそも何なのか,その定義を検索しましたが,明確に数値などで定義したものは見つけられませんでした(見つけた方は教えてください).
というのも この言葉は異なる2つの意味で用いられており,それらが同じ論文の中でも混在していることすらあるからです.

分泌【量】の不足

体内の血管に糖質が流入した刺激を受けて,総量としてどれくらいのインスリンが分泌されたのかという問題です.この【量】の不全は,更に2つのパターンがあり,

1. 絶対的インスリン分泌不足

これは1型糖尿病が明確です.インスリンがゼロの状態ですから. また2型糖尿病でも,インスリン分泌はゼロではないものの必要最低限量さえ分泌されていない状態です.

2. 相対的インスリン分泌不足

ところが,インスリンの絶対分泌量は普通なのだが(どころか,時に健常人よりも多いことも.次の記事で実例を示します),インスリン抵抗性がそれに打ち勝って高血糖をきたしている状態.海外の文献ではほとんどこの意味で使っています.なにしろ欧米人では糖尿病=肥満=インスリン抵抗性 というケースが圧倒的に多いので.

分泌【速度】の不足

糖の刺激変動に即応してインスリン分泌を急速に増減させる必要があるが,その応答速度が不足しているケースです.例えばこの図の例では;

血糖の上昇に応じて直ちにインスリン分泌が始まったのですが,いかんせん すぐに力尽きてしまい,結果として血糖値が上昇してしまっている例です.

このケースでは応答速度は正常だったのです.ただ量が足りなかっただけ.

一方,この例では;

血糖値が上昇してからかなり遅れてインスリンが遅延分泌しているので,血糖値の抑制ができていません. それどころか,既に必要なくなった時にまで大量のインスリンが分泌されているので,自分自身のインスリンで低血糖を起こしてしまっています(180分).

このケースでは分泌量は十分すぎるほどだったのです. ただ応答速度不全だっただけ

4つの類型

そこで,インスリンの分泌総量と 分泌速度とをマトリクスで考えると このような4類型がありえます.

インスリンが速やかに十分な量で分泌され,かつ 不要になれば直ちに分泌が止まる(ここ重要)のであれば,常に正常な血糖値が保たれますが,それ以外の3つの場合はすべて高血糖=糖尿病となります.

インスリン抵抗性が加わると

本稿の内容から少し外れますが,更に以上の4類型にインスリン抵抗性が加わると,インスリンの量と速度が十分であっても.高血糖となります.

『インスリン分泌過少であっても,インスリン抵抗性があり得るのか』は,悩んだのですが,多分別記事で触れる BMI Paradox のケースもあり得るので,図ではこうしておきました.

そりゃ混乱しますよ

これだけのパターンがあり得るのに,単に『あなたはインスリン分泌不全(遅延も含め)です』,『あなたにはインスリン抵抗性があります』としか説明されないので,患者は何をどうとらえたらいいのかわからなくなっているのが現状ではないでしょうか?

[データ解析02] に続く

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