2型糖尿病って本当にあるのでしょうか? その5

あじふらいさんのコメント

2型糖尿病って本当にあるのでしょうか? その4の記事について ブログ[Re:ゼロから始める糖尿病生活] のあじふらいさん から下記のコメントをいただきました.

2019-04-03 18:41
博士の名前が難しいのですが((´・ω・`)
アールキユヴィストはかせで良いのでしょうか?
それはそれとして。
自分的のOGTT結果的にはCluster5になるのかな、と思います。
もしくはCluster2の中でも重篤性が低い方なのかな、と。
分泌、抵抗性で今回分類されてますけど、自分的にはインスリンの感受性ってあるんじゃないかなと思ってます。
つまり、2次元じゃなくて3次元なんじゃないかなーと。
自分的にはそこらへんが鍛えられる余地なのかなーと信じてやってます(`・ω・´)

たしかに あじふらいさんの糖負荷試験の結果 を見ると,インスリン分泌量が空腹時・OGTT 30分後の両方で驚くほど少ないのです.特にOGTT 30分で25.5μIUというのは,インスリン抵抗性のある人なら空腹時でもこれくらいの人は珍しくないです. それなのに その時点での血糖値は181に過ぎません.驚異的なインスリン感受性をお持ちとしか思えません.

4次元の男

そこで,前回の図を拡張して,インスリン抵抗性とは正反対の指標として,インスリン感受性の軸を伸ばし,あじふらいさんを左下の象限に配置してみました.

横軸のどのあたりに位置するのかは悩んだのですが,空腹時のインスリンは正常値の下限ギリギリ,しかし血糖値は低く保たれているのだから,「分泌不全」ではない,ということで とりあえずこうしました.

なお,あじふらいさんご提案の「2次元じゃなくて3次元なんじゃないか」ですが,もしインスリン感受性を3次元(つまり,この図のZ軸)にすると,『インスリン抵抗性もインスリン感受性も人並み外れて高い』ケースが存在しうることになり,それはないだろうと思って, インスリン感受性はインスリン抵抗性と拮抗する軸としました.

このケースはそんなに珍しいのだろうか

毎日のあじふらいさんのブログ記事を見ると,うらやましいほどの2桁数字.しかもこれが少量のインスリンで済むということは,非常に高いインスリン感受性です. こういう人は珍しいのだろうかと思い,調べてみると,以前ご紹介した 鹿児島大学 納 先生のHP に,ボランティア No.25の人[30台の健康な男性]の糖負荷試験結果が,あじふらいさんにそっくりでした.

糖負荷試験で 血糖値が2つのピークを持つこと,極めて少量のインスリン分泌で済んでいることなど,同一人のデータだといっても通用するほどよく似ています.したがって極めて稀なケースということはなさそうです.

あじふらいさんの,このインスリン感受性の秘訣は何なのでしょうか? そういう体質といってしまえばそれまでなのですが,ブログを拝見すると,ほぼ毎日ジョギング又はランニングをされているようですが.

スーパーカブ と スカイライン 2000-GTR

50ccスーパーカブのエンジン(3.7馬力)を40個接続して,ロスがなければ 総合で148馬力となります.
一方 直列4気筒2,000ccクラス スポーツカーエンジンは,1台で200馬力ほど.

総合馬力と言い,瞬発トルクと言い,原付を40台連ねても,スポーツカー1台には 勝負にすらなりません.
ところが ここでスポーツカーエンジンの1,2気筒が点火不良などで不調になったらどうでしょうか. トルクもパワーもガタ落ちです.一方原付エンジン集合体は1つや2つ動かなくなっても平然として,ほとんど変化はみられないでしょう.

つまり膵臓β細胞にも,個々のβ細胞の分泌能は非力だが,それを補うために細胞の数が多いタイプと,強力な分泌能を持つ少数の細胞でブイブイいわせているタイプとがあるのではないかと想像します[エビデンスも報告例もありませんが].

根拠にはならないのですが,貧血と赤血球の関係でアナロジーに使える例があります. 人間の各組織に酸素を届けるのは,赤血球中のヘモグロビンですが,赤血球の数が少ない人(=健康診断で貧血と言われる人は,赤血球の数が少ない人です)は,数の少なさを補うために,個々の赤血球の色素が『濃く』,しかもサイズが大きくなっている場合があります. 絶対的に少ないトラック台数で同じ量の荷物を運送しようと思ったら,大型トラックに過積載するしかないからです.

膵臓のように 分泌量がMUSTである場合,スカデラがないのなら,スーパーカブを連ねればいい,というわけです.

あじふらいさんのエンジンは,もとい,膵臓は, 非力ですが持続力があるので,300gの白米を食べても ほとんど血糖値上昇がみられません(食前:72 → 90分:132 ).
ところが 糖負荷試験のように瞬間的にブドウ糖(300gの白米=100gの糖質 より少ない75gであるにもかかわらず)を流し込まれると,さすがにスポーツカーのようにはいかないようで,血糖値は180超となります.このデータを見て,上記のスーパーカブ説を思いつきました.

めざせ スーパーカブ

以上のことから,インスリン分泌不足が糖尿病の原因である人は,上記の図の『下に向かって』つまりインスリン感受性を高めるのが現実的な最良手段と思えます. その到達法はもちろん人によりけりでしょうが,あじふらいさんの実例は,一つの到達点を示していただいているように思えます.

さらにhighbloodglucoseさんからも

興味あるコメントが届いています.

[その6 に続く]

コメント

  1. 東郷 より:

    しらねのぞるばさん初めまして。東郷と申します。

    Ⅱ型糖尿病歴約15年、62才男です。
    いつも精力的な記事の掲載、有難うございます。

    いきなりですみませんが、少しわからないことがありますので、教えてください。

    「あじふらいさんの糖負荷試験の結果を見ると,インスリン分泌量が空腹時・OGTT 30分後の両方で驚くほど少ないのです.
    特にOGTT 30分で25.5μIUというのは,インスリン抵抗性のある人なら空腹時でもこれくらいの人は珍しくないです.
    それなのに その時点での血糖値は181に過ぎません.驚異的なインスリン感受性をお持ちとしか思えません.」

    この部分がわかりませんでした。

    私は、あじふらいさんの30分後の結果だけを見ると感受性はいまひとつかな、と思ったのです。

    私はインスリン分泌遅延と分泌不足がありまして、OGTTの結果は
    空腹時インスリン2.7に対し、血糖値は114
    30分後インスリン4.4に対し、血糖値140
    (60分後同7.9に対し199、120分後14.5に183)

    これが今月の結果ですが、半年前は
    空腹時インスリン3.5に対し、血糖値は108
    30分後インスリン9.5に対し、血糖値167
    (60分後同16.1に対し188、120分後に144)

    (なお、上で「対し」という言葉を何度か使ってしまいましたが、ご存知のようにインスリンと血糖値のピークはずれることが多いです。)

    半年間で多少のばらつきはありますが、いずれもあじふらいさんと比べてインスリン感受性はかなり良く、分泌遅延、分泌量はあじふらいさんよりかなり悪いといえそうです。

    私は他の人のインスリン感受性がどの程度かは知らないので何とも言えないのですが。
    しらねのぞるばさんがあじふらいさんについて「驚異的なインスリン感受性をお持ちとしか思えません.」と思われたのはどうしてでしょうか?

    あ!
    もし、あじふらいさんの30分後のインスリンとそれよりさらに30分後、60分後の血糖値を比較しての考察ならわからないでもないですけどね。

    • しらねのぞるば より:

      コメントありがとうございます.

      >驚異的なインスリン感受性

      あ,いつも海外の文献を読んで,海外 特にコーカソイド(白人)の場合はほとんどインスリン抵抗性が高いので,空腹時でも20~30μIU,血糖上昇時には100以上という数字を見慣れているので,これは[インスリン抵抗性のある人からみれば]驚異的な感受性,というだけの意味でした.

      インスリン感受性という場合,Staticな量的感受性(血糖値に応じたインスリン量)と Dynamicな応答感受性(血糖値上昇に即応した分泌開始)との2つがあるのだろうと思っています.

  2. あじふらい より:

    なるほどー
    目からウロコです。
    25のひと、そっくりですね。
    しかもこの人が健常者ってあたりに希望を感じます(`・∀・´)

    自分の考えてた感じでは、毛細血管から細胞に血糖を渡す能力の衰えがインスリン抵抗性、渡された細胞側での血糖処理能力がインスリン感受性って感じで考えてました。
    細胞で処理が進めば、毛細血管から渡すのも進んで、結果血糖値の処理も上手くいくだろう、と。
    つまり抵抗性は100点からの減算式、感受性は加算式で、別々に共存できるものなんじゃないかな、と。

    エンジンはまだまだ増やせると信じて頑張る励みになります٩(。•ω•。)و

    • しらねのぞるば より:

      あじふらいさんのケースは,多分 あの低い血糖値を見て 皆様 注目していると思います. 毎晩 ジョギングされているのですか?

      • あじふらい より:

        基本的には歯磨き感覚で走るようにはしてますよ(`・ω・´)
        3日毎くらいでごはんを豆腐にしたりする休膵日を設けてるんですがそういうときは運動も休止してます。

        • しらねのぞるば より:

          ありがとうございます. それにしても 日によっては すごいスピードで走ってますね. 『最高速度 179km/h』という日もありましたが,あれは??

          • あじふらい より:

            17.9くらいならたぶん出てる日もありそうに思います。
            うちの周りって坂道だらけなもんで、基本的にはコースは急な坂道とゆるい坂道で構成されてます。
            上りはじっくり走ってますけど、下りは駆け抜けてますんで瞬間的には結構なスピードでてるときがあるかなーって感じですね。

          • しらねのぞるば より:

            そうか 私が小数点を見落としたのですね. 新幹線の屋根に登って走ったのかと思いました.
            そういえば結構な高低差もあるようですね.

  3. highbloodglucose より:

    やはり、あじふらいさんはクラスター3の対極にプロットされましたね。
    日本人(東アジア人?)は白人と比べるとインスリン分泌能が低く感受性が高い特性があるようなので、食生活や運動によってあじふらいさんタイプになれる可能性が高いのかもしれませんね。
    ただ、わたしのように筋肉量の少ないやせ型女性には厳しいかも。
    やっぱり筋トレかぁ…(ため息)

    • しらねのぞるば より:

      > やっぱり筋トレかぁ

      今 そこをまとめようとしているのですが,

      筋トレ→ 太い筋肉 → 血糖を吸い込んでくれるはず

      果たしてこれは正しいのだろうかと疑問に思っています.

      • highbloodglucose より:

        お、もしかすると、耐糖能改善に筋トレは必要か否かというテーマが
        近いうちにアップされるのかしら。

        楽しみにしています。

        • しらねのぞるば より:

          何となく ストーリーのイメージはたてているのですが(← 科学者にあるまじき態度),それを 裏付けるデータがなかなか集まりません. 基本的には 統計で粉飾された論文のConclusionではなくて,生データだけで立証したいと考えています.

  4. あめり より:

    はじめまして。大変興味深く読ませて頂きました。
    私の父は7人兄弟で、一人を除いて全員が50代を過ぎた辺りから糖尿病になりました。
    因みに、私の父は毎年受けていた健康診断で糖尿病と言われる事無く、49歳の若さで突然死し、後日、糖尿病だったと聞きました。
    多分、食事の度に、血糖値スパイクを起こしていたと思われます。

    私も健康診断では、糖尿病と判定された事は無く、将来、糖尿病になる可能性があるのかを知りたくて、40代半ばで、OGTTを受けました。
    約10年前ですが、こちらがその時の数値です。

    空腹時 血糖値 83 尿糖 5  インスリン 1.5以下
    30分  血糖値 168      インスリン 11.0
    60分  血糖値 208      インスリン 23.1
    120分  血糖値 204 尿糖 860 インスリン 49.0

    HbA1C 4.7

    2時間値が200を超えているので、糖尿病と判定され、糖尿病手帳を貰いました。

    その後、毎年、血液検査は受けていますが、空腹時血糖値は80、HbA1Cも5.5以下です。
    私も50代半ばになりましたが、一番最近の検査結果でも空腹時血糖は80、HbA1Cは、5.1でした。今まで、どの医師からも、「あなたは糖尿病ではない。」と言われますので、薬は飲んだ事はありません。

    因みに、私は、筋肉量少ない、BMI 18の痩せ型女性で、高校生の頃の身長、体重をずっと維持しています。
    私の父を含め、叔父、叔母たちは酒豪でしたが、私は全くお酒が飲めない体質で、お酒は飲みません。糖質制限、脂質制限等の食事制限はしていませんが、お腹いっぱいに食べる事は避けていますので、カロリー制限でしょうか。

    私のような遺伝の影響が大きい糖尿病は治癒する事は無いと思っていますが、今後もインスリン注射や薬に頼る事無く、生活できたらと良いと思っています。

    • しらねのぞるば より:

      >約10年前ですが、
      ~~
      > HbA1C 4.7

      この4.7は10年前の数字ですよね? とすると 当時のJDS表示で,現在のNGSTの 5.0のことでしょうか?
      もしそうなら,10年間ほとんど変動がなかったわけで あまり心配はいらないのではないかと思います.

      また たしかに糖負荷試験で 血糖値が上昇しましたが,その上がり方の緩やかさからみて 普段の食生活では,ジェットコースターのような乱高下は起こっていないのではないでしょうか.

      これから 日本人の糖負荷試験の生データだけに着目して,考えてみたいと思っています.

  5. よっしー より:

    はじめまして!江部先生のブログで何度か拝見させていただいております。

    「筋トレ→ 太い筋肉 → 血糖を吸い込んでくれるはず」

    私は2型糖尿病の家族歴があったのであえてフィットネスクラブで働いており、同年代の女性の平均よりも筋量が常にかなりあったにも関わらず発症しましたし、私と同様にダンスのコーチやスイミングのインストラクターをしていて発症した方たちも知っています。みなさん遺伝の方です。

    筋トレはした方がいいと思いますが、誰もが筋トレだけですべての問題が解決するといったように過信するのが良くないのかなと思います。今は無理のない強度の筋トレを続けております。

    • しらねのぞるば より:

      おはようございます. よっしー様のブログはいつも読んでおります.

      運動が血糖コントロールの維持または改善に一定の効果がある,という一般論は正しいとしても,誰でも運動だけで糖尿病の予防・完治ができると断定するのは行きすぎだと思っております. 「肥満の解消手段として有効である」,ここまでなら私も賛成なのですがね.