グルコキナーゼ[4] ヘキソキナーゼのファミリーです

前回記事まではこうでした.

  • 血液で運ばれてきたグルコース[=ブドウ糖]は,細胞内で まずヘキソキナーゼという酵素によりリン酸化されて 扱いやすい形にする.
  • ヘキソキナーゼには4種類あり,その一つがグルコキナーゼである.

すべてのヘキソキナーゼ(グルコキナーゼ 含めて)は,グルコースを捕まえて強制的にリン酸基をくっつけてリン酸化グルコース(=G6P)にする酵素です.

ではどうしてグルコキナーゼだけ別名があるのでしょうか?

それはそれらの酵素の住所がヒントです.グルコキナーゼだけは 肝臓と膵臓にのみ存在しますが,その他のヘキソキナーゼは,筋肉をはじめ どの臓器にも存在します.
もうこれだけでグルコキナーゼはただものではないとわかりますよね.

さらに,もっと大きな相違点があります. それは ヘキソキナーゼとグルコキナーゼの立体構造です.

Kamata 2004

上段がグルコキナーゼ,下段がヘキソキナーゼです.
どちらも右側が グルコースを捕まえる前の待機状態(= Open Form),そして左側がグルコース(とATP)を取り込んで口を閉じた時の状態(= Closed Form)です.

閉じた状態では,グルコキナーゼとヘキソキナーゼの立体構造は似ています[上段左,下段左].

しかしオープンな状態ではかなり異なります.
オープン状態の時,ヘキソキナーゼは グルコースを見つけると すかさず取り込めるように小さく口をあけているだけです[下段右] .
一方 グルコキナーゼのオープン状態は,まるで顎が外れたように大きく口を開けています[Super-Open:上段右].
実際,これだけ大きく開いていると,グルコースを取り込むためには,顎の部分を(図に示すように) 99度も持ち上げる必要があるのでかなり手間取ります.

この違いは.応答性の差として現れており,グルコキナーゼは,グルコースリン酸化酵素と言いながら,そのリン酸化反応速度はニブいのです.
対してヘキソキナーゼは グルコースがあれば即座にくわえ込んでしまいます.

この差は,血糖値が低い場合,正常血糖値(~100mg/dl)付近,そして高血糖状態で,ヘキソキナーゼとグルコキナーゼの状態を比較するとよくわかります.がグルコースです.

ヘキソキナーゼは,とにかくグルコース()を見つければすかさず捕まえるので,どんな血糖値状態であっても,すべてのヘキソキナーゼはいつも手いっぱいになっています[上段].
それに対して グルコキナーゼは 低血糖状態では あまりグルコースを捕捉せず,非常に高血糖状態になるまでは[※] かならず手空きの(=Open状態の)ものが存在します[下段]

[※] 『非常に高血糖状態になるまでは』非常に高血糖状態になると,グルコキナーゼのOpen状態はヘキソキナーゼと同じになります. つまりグルコキナーゼは Closed/Open/Super-Openという,3つの立体配置をとる特異な酵素です.

どちらもキナーゼ=リン酸化酵素なのですから,結果として ヘキソキナーゼとグルコキナーゼがグルコースにリン酸を付加して,製品である リン酸化グルコース(=G6P)を 次の酵素に渡す速度は,血糖値に応じてこうなります.

ここまでみれば,グルコキナーゼが肝臓・膵臓にのみ存在している意義がわかります.

ヘキソキナーゼはデジタル動作

グルコースがあれば 低血糖でも高血糖でもすぐ取り込みます. これはグルコースを高速・効率的に送り込む必要なある臓器,たとえば筋肉にとっては必要な動作です.
しかし,これでは 血糖値が低い状態/高い状態を区別できません.ほとんどゼロに近い低血糖にでもならない限り,常にリン酸化グルコース(G6P)が作られるからです.

グルコキナーゼはアナログ動作

血糖値に比例して 製品(=リン酸化グルコース;G6P)が産生される速度が変わります. 低血糖の時には ほとんどリン酸化は進行せず,高血糖の時には大量にリン酸化グルコースをせっせと作ります.

これが この記事で『グルコキナーゼは車の速度計に相当する』と述べた理由です.グルコキナーゼのこの特性によって 血糖値に応じた糖新生やインスリン分泌制御が可能になっているのです.

[続く]

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