ジワリジワリと血糖値が上がる
ホリデーさんのブログ『薬いらずの糖尿病治療』 で,起床時からそのまま絶食していると,午前中ずっと血糖値が上がっていく という例が報告されています.
データを発掘してみると,私にも 数年前 まだ起床時の血糖値が不安定だった頃には,それだけでもうっとうしいのに,更に定期健診などのために 朝から何も食べないでいると,さらにじわじわと血糖値が上昇していくことがありました.
ただ,これが毎回そうだというわけでもなくて,このような上昇が起こる日とそうでない時とがあります.
憎らしいことに,この上昇は 食事(ごく少量の糖質であっても)を摂ると,一瞬食後上昇があった後に,直ちに起床時よりも低い血糖値に落ちるのです.
まるで膵臓に『あっ! 今朝はインスリン出し忘れてました.テヘペロ』と おちょくられたようで,全く不愉快です.
絶食が続くと
絶食により,食物からの補給は途絶えますので,人体はインスリンの分泌を最小限に絞り,かつ低血糖に陥らないように,インスリン拮抗ホルモン(グルカゴン,コルチゾン,成長ホルモン等)の分泌を増やします. また絶食が断食ともいえるほど長引くと,脂質代謝が優勢になり,遊離脂肪酸も増えてきます. このようなホルモンの動きは,納先生のHP『その8)71時間絶食下における検査室測定値と自己測定値の動き』 に詳細なデータが掲載されています. 納先生のHPは何度見ても勉強になります.
しかし,この起床時から午前中にかけての血糖値上昇は,断食というほどの絶食時間ではありません. 昨晩の夕飯から今朝の朝食までの絶食時間が,たかだか3,4時間延びたにすぎないのですから. また起床時から血糖値が高かったのであれば『暁現象』ですが,起床時はほぼ正常値だったので,そうではありません.
概日リズム Circadian Rhythm
そこで調べてみたところ,人体の概日リズム(Circadian Rhythm)において,特に コルチゾールやアドレナリン(epinephrine)は,午前8時をピークにして,午前中 活発に分泌されることが知られています.
つまり,睡眠から目覚めたばかりの寝ぼけまなこを,このホルモンの刺激でピシッと気合を入れて動けるようにしているわけです. ただ健常人であれば,この程度の血糖値上昇はすぐに基礎インスリン分泌,あるいは筋肉など各臓器のインスリン非依存性の糖取り込みによって解決されてしまうのでしょう.実際,文献を調べましたが,この現象に関しては,まったく文献が見当たりませんでした. 別に未知の現象というわけでもなく,病的なレベルではないから,そもそも医学研究の対象にすらならないのが理由と思われます.
そこで いつものアレです
もちろん,この血糖値の上昇の犯人は明らかです.食事を摂っていないのですから,糖新生による血糖補給しかありえません.そこで解決法は,運動などをして糖を取り込ませるか,糖新生を抑制するかの二択です. ただ空腹時にあまり激しい運動をすると,かえって血糖値が上昇するというデータもあります(雪国で,朝食前に雪下ろしをやったら血糖値が100以上上がった人もいるそうです). とすれば残る手段はメトホルミンです. その結果がこちら.
アドレナリンなどの分泌ピークにぶつけるように,午前5時ころにメトホルミンを服用した結果がグラフの緑線です.のまなかった場合(茶 破線)に比べて,上がろうとする血糖値をはたき落としたように見えます, ただ,この実験は1回だけでした.
理由は,これをやってみて気づいたのですが『どうせならもう少し早いタイミングでメトホルミンをのめば,暁現象も抑制できるかも』と思って,そちらの方に注力したからです.その結果は江部先生のブログ で報告しました. 私の場合は,これによって,暁現象と,午前中の血糖値上昇を抑え込めることは確認できました. ただいつも午前3時にメトホルミンを服用できるわけはありませんので,単なる確認実験にしかなりませんでした.
もっとも 糖質制限食5年目くらいからは,朝の血糖値も落ち着いた ので,その必要もなくなりました.
結局,この現象の原因も解決法も,適切なインスリン分泌量とそのタイミングであるということに総括されると思います.
コメント
記事ありがとうございます。貴重な事例提供をしていただきました。
自分のデータを比較してまたあれこれ妄想しています。
ぞるばさんの記事の中のグラフを勝手に私の記事に使わせていただきました。ご容赦ください
私のブログは転載・引用はまったく自由です.
インスリン分泌が,ある血糖値に対してトリガーがかかるのではないか? とは私も以前のデータから思ったことがあるのですが,その点について調べたことは(はい,すぐに調べてみたくなるのです.これも病気です)記事にしてみたいと思います.