日本糖尿病学会が発表した 『糖尿病患者の栄養食事指導のコンセンサスステートメント』は,その名前に反して,特に 炭水化物に関しては まったく『コンセンサス(合意)』しているとは思えないものでした.
『カロリー制限』は食事療法と言えるのか
糖尿病の食事療法として糖質制限食を提唱している北里大学病院の山田先生は,これをどう考えているのでしょうか.それは 『第55回 糖尿病の進歩』講演会にて,ご本人が回答しておられました.
山田先生はこの講演で,『エネルギー制限は,食事療法とは別の側面である』として,この文献を紹介していました.
米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)とが合同で発表した,2型糖尿病の血糖管理に関するガイドラインです.
この文献の中に下のような表(Table 2)があります(小さくて申し訳ありません)
2型糖尿病の血糖コントロール改善手段を分類し,それぞれの効果・利点・欠点を整理したものです.
上の表の赤枠だけを拡大するとこうなります.
投薬以外の方法,すなわちライフスタイル(生活習慣)の面では,『食事療法』・『運動療法』・『減量=エネルギー(カロリー)制限』が三本柱であるとしています.
山田先生が強調していたのは.上記からおわかりのように,『食事療法とカロリー制限とは別物である』というのが欧米糖尿病学会の考えです.つまり『カロリー制限』は食事療法の範疇ではないのです. 食事療法とは,上図のように,『地中海食』,『DASH食[注]』『低炭水化物食(糖質制限食)』などのことです.
[注] DASH食=米国 心肺血液研究所が提唱する高血圧防止のための食事法
では,なぜ『カロリー制限』は 食事療法とみなされていないのでしょうか? それは欧米の糖尿病患者はほぼすべてが肥満だからです. だから『食事療法』『運動療法』と並んで『減量療法』(=カロリー制限)が三本柱なのです.これが『食事療法』と『減量療法』とが全く別である理由です.
この例を挙げて,山田先生は
肥満の患者にカロリー制限(=減量)が必要なことは自明である.しかしそれは肥満解消の手段であるのに, 日本では,肥満でもない人・普通体格や痩せた人・あるいは痩せすぎの人にまでカロリー制限食を強要する根拠は何もない
と強調していました.この講演を聴いていて,学会で 今何がどう紛糾しているのかがよくわかりました.
一方 日本糖尿病学会は
日本糖尿病学会は長年 食品交換表に基づく 高糖質のカロリー制限食だけが,唯一の正しい糖尿病食事療法としてきました.
そしてその立場の人からみれば,食事療法の論争は『カロリー制限食』と『糖質制限食』との,完全対立の問題であると考えてきました. これは私の邪推ではありません.たとえば 第60回日本糖尿病学会 年次学術集会では,こういうディベートが行われています.
このディベートの件名からわかるように,糖尿病学会の立場では,『カロリー制限食』と『糖質制限食』とは,二者択一,どちらか一方が倒れるまで終わらない【竜虎の戦い】であり,糖質制限食を肯定することは,すなわちカロリー制限食を否定するものだという考えです.
これでは両者の議論がかみ合わないのも当然です.
[4]に続く
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