食後に血糖値が上昇し,そして 時間と共に下降する.このプロセスは,患者向けのパンフレットには;
炭水化物,脂質,たんぱく質は,胃液,膵液などによって消化され,腸管で糖(ほとんどがブドウ糖),脂肪酸,およびアミノ酸などに分解されて吸収されます.食事により血糖値が上昇すると膵臓からインスリンが分泌され,ブドウ糖は筋肉に取り込まれてエネルギーとして使われます.余った分は筋肉や肝臓,脂肪細胞にグリコーゲンや脂肪として蓄えられます.空腹時には貯蔵されていたグリコーゲン,脂肪が分解されて,エネルギー源として利用されます.
糖尿病治療の手びき 2020年改訂第58版 p.3
(C) 日本糖尿病学会
と解説されています.しかし 上記は 患者向けのかみくだいた解説であることを割り引いても,血糖値の変動はそれほど単純なものではないと思います.事実 前回までの記事で見た通り,血糖値の上下とインスリンの分泌量とが正反対になっていることすらあるのですから.
インスリンの関与だけでなく
激しい運動の後では,筋肉のグリコーゲンも枯渇しているので,インスリンの介在なしに 筋肉が血糖を『吸い込んで』しまいます.
また,血糖値の制御はインスリン作用が主体であることは事実ですが,食事によらない血糖値の上昇(アドレナリン分泌を伴うような行為・感情などで)もあります.
さらに 一切食事を摂っていないのに血糖値がじわじわと上昇する 暁効果や,『第二の暁効果』もあります.
膵臓はATMではありません
血糖値上昇を補うインスリンの分泌 という現象に限定しても,決して 単純な現象でないことはここまで見てきた通りです.しかも納先生のHP に掲載されている糖負荷試験の結果は 現在の糖尿病診断基準では『正常』とされている人がほとんどなのです.
では,『血糖値に対応したインスリン分泌』とはどういうメカニズムなのでしょうか? 解説書やネット情報では,『血糖値が上がれば すぐに膵臓からインスリン』 とこう書かれていますが,実際は実に複雑で,ATMのようにボタンを押せば出てくるというものではないようです.その流れを追ってみましょう.
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コメント
>血糖値が上がれば すぐに膵臓からインスリン
私は食事を食べ始めると最初の10~15分ほどはベースよりほんの少しだけ血糖値が下がる事が多いです。
もしかして、これがインスリンの初期追加分泌によるものであり、人体のホメオスタシスにより血糖値を一定に保とうとしているのではと解釈しています。
しかし、初期分泌量(ストックされたインスリン)はそれほど多くはなく、その後、血糖値は上昇に転じますが、その時はインスリンを追っかけ産生しているのだろうと思います。
こう言う状態になる時の糖質量は食事全体の1/3程度を食べ終えた時ですから、私の食事なら5gを少し超えたくらいでしょうか。
糖質5g以下の摂取では血糖値は上昇しないと言うのをどこかで見たことがあります。ホメオスタシスによる恒常性では、その程度の血糖の変化なら一定に保てるのでしょう。
>初期分泌量(ストックされたインスリン)
『一次分泌は β細胞の細胞膜上にストックされていて直ちに分泌できる状態のもの』,『二次分泌は 遅れてβ細胞内で作られたもの』,という説は,最近の文献では 揺らいでいるようです. 一次/二次という分泌タイミングの差はたしかにあるのだが,どちらもβ細胞内から作られたものであり,ただインスリンシグナルに2系統あって,それらが速いものと遅いものとの差だ,という説明です.
つまり,インスリン出荷指示の命令系統は どうやら1本ではないようです. しかも2本ですらなく,もっとたくさんあるのではないかという説も. いよいよ謎が深まっています.