緩徐進行1型糖尿病[2]

前回記事で,

緩徐進行1型糖尿病[1]
1型らしくない糖尿病には 1型,2型,そして妊娠糖尿病とその他の糖尿病に分類されるというのが標準的な考えです.1型糖尿病は,生活習慣や肥満などとはまったく無関係に,ある日突然膵臓のβ細胞が自分自身の免疫システムによって攻撃され,インスリン分…

「緩徐進行1型糖尿病は1型と2型の中間的病態を示す」と書きました. 1型と2型とでは発症機構や病態がまるで違うのに,どうしてその「中間的な状態」がありえるのでしょうか? もっとも1型・2型ですら,その発症メカニズムはほとんど未解明なのですから,緩徐進行1型糖尿病がなぜ発症するか何もわかっていなくても不思議ではありませんが.

緩徐進行1型糖尿病と遺伝的素因

ところで,「1型と2型の中間」といっても その程度は連続していて,ほとんど1型に近いものや,逆に長期間2型と区別がつかないものまであります. この差が生ずる原因として提案されているのは 1型糖尿病リスクに関連する遺伝子 HLA遺伝子(ヒト白血球抗原遺伝子; Human Leukocyte Antigen) の型が関係しているという説です.

(以下の文章では,SNP,アレルなどを厳密に記述せず,単に「遺伝子の型」などと表現しています)

HLAとは,おおざっぱには「白血球の血液型」と呼ばれますが,白血球だけに存在するのではなく,人体のほぼすべての細胞/あらゆる体液に存在し,自己と他者とを区別するという免疫システムではもっとも重要な役割を担っています.このHLAを発現する遺伝子は ヒトの第6染色体短腕の複数の場所に分散して存在していて

HLA遺伝子の場所

しかも それぞれの場所ごとに数十種のタイプがあるので (HLA推定アレル一覧表[PDF]) それらの組み合わせ(ハプロタイプ)は非常に多数(~40,000)となります. 染色体は1対で1組ですから,それぞれのどの型がどちらに存在するかでさらに無数の組み合わせが存在することになります.そして子供は 両親から一つずつ 染色体をもらうので,必ず親とは異なるHLA型を有することになります. つまり親と子のHLA型は同じにはならず 1/2しか一致しません.

そして この組み合わせによっては,1型糖尿病になるリスクを高めてしまうもの(疾患感受性)もあれば,逆にリスクが下がる(疾患抵抗性)組み合わせもあります.

もちろん これらの特定の組み合わせ(ハプロタイプ)を持っているからといって,必ず1型糖尿病を発症するわけでも,絶対に1型糖尿病にならないというわけでもありません. あくまでも統計的にみたリスクの相対的な大小です.また,このリスクにかかわる遺伝子の型には,著しい民族差もあります.日本人と欧米人とでは かなり異なるようです.

高齢で発症した緩徐進行1型糖尿病

緩徐進行1型糖尿病は,中年以降で発症することは珍しくありませんが,高齢者ではほとんどみられません. ところが この報告によれば,なんと94歳で緩徐進行1型糖尿病を発症した症例です.

畑山 2023

94歳の時点で口渇,多飲,多尿という典型的糖尿病症状がみられたため,DPP-4阻害薬で治療を開始したが,HbA1cが6.4→8.9→11.0%と悪化するばかりなので,入院して精密診断することになりました.

身長150cm,体重45.6kg,BMI=20.0とやせ型の女性です. 空腹時血中C ペプチドは0.92 ng/ml とインスリン分泌能は低く,GAD抗体(ELISA 法)は1740 U/mLと非常に高い値でした. そして HLA 遺伝子型は DRB1*09:01-DQB1*03:031 と上表の「発症リスクが高いハプロタイプ」でした.そこで投薬だけでなく,インスリン療法も開始したところ,1年経過後には,空腹時血中C ペプチド0.33 ng/mLと更に低下していましたが,更にインスリンを増量して,血糖値はやや高い(175mg/dl)ものの,頻尿や口渇など高血糖症状は起らず そのまま安定に推移したようです.

[続く]      

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