蒸気機関が発明されたのは18世紀ですが,機関車の動力として実用化されたのは19世紀にはいってからです.
蒸気機関は,蒸気シリンダの往復運動を回転運動に変換して動くのですが,初期の蒸気機関はきわめて非力で,特に始動時には ガックンガックンとお世辞にも乗り心地がいいとは言えない代物でした. そのため,当時の蒸気機関車は,動き出す前に まず十分な回転エネルギーをはずみ車(フライホイール)に蓄えておいて,このはずみ車の回転が滑らかになったところで,クラッチを動輪につないで ようやく発車できたのです. こんな具合です.

はずみ車は,一旦回転が始まると,今度は容易には停止しません. 慣性の法則で いつまでも回り続けようとするのです.
クリニカル・イナーシャ
毎月 通院しても,検査結果をチラ見するだけで;
お変わりないですね.じゃあ前回と同じ薬を出しときますね
もう何年も まったく同じ薬,たしかにHbA1cはほとんど同じなので 変える理由はないのだろうけど,はたしてこれを治療と呼んでいいのか.
そうです,漫然と同じ治療を続けることを クリニカル・イナーシャといいます.イナーシャ inertia とは慣性であり,惰性という意味にも使われます.

しかし,このイナーシャは医師の側にだけあるのではないと思います.
患者のイナーシャ
森園先生のブログには,時々「もはや不要かと思えるのに,薬をやめるのが不安な患者」の例が登場しますが;

医師から見ても,もう薬のやめ時と思えるのに,「やめたら 悪化するのではないか. 今まで続けてきたのだから,この薬をのんでいれば安心」という例もあります.それはそれで 慎重な判断かもしれませんが,ただのイナーシャ,つまり惰性ではないかと 時に 自己点検してみることも必要でしょう.
健康オタクのイナーシャ
もっと 怪しいのは,健康法のイナーシャです. 昔 私の近所の薬局店のお爺ちゃんは,冬の朝 ほとんどパンツ一丁になって 肌が真っ赤になるほど乾布摩擦をしていました. 雨でも雪でもそうです. 頭はみごとにピカピカで,毎日 暇さえあれば健康運動と称する,奇妙な体操もしており,もう「健康のためなら,死んでもいいっ!」というほどの健康オタクでした.
お嫁さんが「もう歳だから 無理はしないで」というのですが,本人からすれば「もう40年も これを続けてきたのだから,今更やめられない」と,やめた時に何か悪いことが起こるかもしれないという恐怖だけで続けていたようです.

今まで続けてきたのだから,やめるにやめられない
それをイナーシャ(慣性・惰性)と呼びます.

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