厚労省NDBオープンデータに開示されている日本最大の医療データベースを見てきました.
特定健診のデータは,日本の40歳~74歳の成人について,詳細な検査結果を示しています.これは男性1,600万人,女性 1,400万人の特定健診結果を集計したもので,なんと この年齢層人口の50%以上をカバーしています.
特定健診は職場でも行われますから,雇用されている人はいやおうなしに受診することになるので,これほど受診率が高いのでしょう.ただ,国民健康保険加入者,主に自営業の人は,自治体が行う特定健診を受診するよう勧奨されていますが,実際にはあまり受診率は高くないようです.
75歳になると
私もそうでしたが,会社員は毎年1回健康診断を受けるように言われます. これは労働衛生安全法において,雇用主は社員の健康を管理するよう義務付けられているからです. たまたま健康診断の日に会社を休んでも,必ず最寄りの医療機関で健康診断を受けるよう指示されます.これを拒否したら,原則上は雇用契約を解除されても,つまりクビになっても文句は言えません.
ところが,75歳の誕生日を迎えると 事情は一変します. 75歳を超えても会社勤めをしている人は かなり少ないでしょう. すると,健康診断を受けるかどうかは,まったく任意になります. 会社勤めをやめても,74歳までは特定健診を受けろ,と自治体から催促状が届くのですが,75歳以上では それはなくなり,「健康診断を受けたければ申出よ」となります. 75歳を境に,健康診断は「受診しろ」から「希望者は受診してもいいよ」と,正反対になるのです.
したがって,当然ながら75歳以上の人の健康状態が全体としてどうなっているのか,を示すデータはありません.厚労省のNDBオープンデータのレセプト情報には,0歳から100歳越えの人まで,すべての医療行為結果が集計されていますが,特に75歳以上で分類されたものはありません. 40-74歳では特定健診で人口の半数以上をカバーしているのに,75歳以上は突然データがなくなるのです.
医療費をみると
このグラフは年齢別の 総医療費,推計人口,そして一人当たりの総医療費をまとめたものです.

医療費の単位を見てください【億円】ですよ. なので,この年の医療費総計は 48兆円にものぼります(おそらく今年は50兆円を突破するでしょう). そして ご覧の通り,医療費のほぼ60%(~29兆円)は65歳以上の高齢者によるものです. 75歳以上だけでみても 40%(~19兆円)です.
この年(2023年度)の消費税収総額が23兆円でしたから,医療費がいかに巨額かがわかります. もちろん 医療費は 原則としては医療保険掛金で賄われるべきものなのですが,実際にはそれでは全然足りなくて,不足分は税金が投入されています. 特に高齢者の多い 国民健康保険では70%が税金で運営されています.
たしかに後期高齢者にも,自治体ベースで後期高齢者健診は行われていますが,前記したように積極的な受診勧奨はしていません. 実際の受診率も極めて低いです. これは高齢者からすれば当然で,ほとんどの75歳以上の後期高齢者は1つや2つの持病があって,毎月のように病院に通っているでしょう[★]. 通院先で 頻繁に血液検査をされているのに,さらに自治体の健診を受けたいと思う人はいないでしょうから.
[★] 厚労省の国民生活基礎調査によれば,75歳以上の後期高齢者は73%が日常的に通院しているようです.
逆にいえば,75歳以上の人は大多数が通院しているのだから,この病院での検査データをすべて集めれば膨大なデータが得られるはずです.なぜ高齢者の医療費がかかってしまうのか,なぜ ポリファーマシー(多剤投与・重複投与)が発生するのかなどと言った分析は,データなしには不可能です.高齢者の医療費を10%でも節減できれば,約3兆円の減税が直ちに可能になるのに現状では手つかずです.
食料品の消費税を1%にするか0%にするか,などといった話は,この医療費のスケールからみれば微々たるものです.食料品からあがる消費税収はたかだか4兆円ほどです.しかし 医療費を,特に高齢者の医療費を節減できれば 数兆円という金がすぐに浮くのですから.
40-75歳未満のメタボ健診の結果は詳細に集計・分析されているのに,医療費の大部分を占める高齢者,特に75歳以上の後期高齢者の健康データは,分析どころか集計すらされていないのです.
これから集めます
さすがに厚労省もこれではまずいと思ったのでしょう.後期高齢者を対象とする自治体の健康診断結果をNDBに取り込もうとしているようです.
しかし,特定健診と異なり,受診率は極めて低いので,特定健診のように 人口の50%以上をカバーすることなど不可能です. また75歳を過ぎても 真面目に毎年 健康診断を受診するような人なら,おそらく普段から健康維持に注意しているでしょうから,そういう人たちだけのデータになってしまう=バイアスがかかってしまう,ことは確実です.
なので,巨額医療費の本体である,高齢者が病院で払っている医療費の中身と,病院での検査結果を集積しないと,医療費削減の有効策は出てこないだろうと思います.厚労省の責任者にはぜひ頑張っていただきたいですね.


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