メトホルミンには,本来の糖尿病薬としての効能だけでなく,多様な効果があることを以前まとめたことがあります.
その時に書こうとしたテーマで断念したのが,「メトホルミンのガン予防効果」です. たしかに「メトルミン服用者は,そうでない人に比べて明らかにガンの発症率が低い」という文献は多数あります. しかし それらは すべて観察研究なのです.
この記事にも書いたように;

観察研究でどれほど明らかな統計的有意差が見出されたとしても,それでもって因果関係を証明したことにはなりません.
- 『米をよく食べている人は,そうでない人に比べて健康であることがわかった』
- 『健康診断を毎年受けている人は,そうでない人に比べて 健康な人の割合が 明らかに高かった』
などと よく報道されますが,それらも観察研究です.米をよく食べる人と あまり食べない人とで,米の消費量以外の差があるのかないのか,健康診断を毎年受ける人は そもそも 常に健康を保とうと努力しているからではないのか,つまり注目している要因だけでなく『それ以外の要因』によって生まれた有意差ではないのか,ということを検証していないからです.
仮に「車のナンバープレートの末尾が奇数の人は,偶数の人に比べて 明らかに交通事故を起こしやすい」などという「統計結果」があったとしましょう. しかしどう見てもそれは交通事故とは無関係ですよね.なので,実際に奇数ナンバーと偶数ナンバーに事故率の差があったとしても,誰でも「それは偶然だ」と思うでしょう.合理的に説明できる理由がないからです.
「メトホルミンを飲んでいる人はガンにかかりにくい」という文献は無数にあるのですが,そのままではメトホルミンの発癌予防効果が証明されたわけではないと思う理由の一つに,メトホルミン有無の比較試験では,必ず『意図しないバイアス』がかかってしまうからです.それは この記事に書いたように;
たとえば,糖尿病でメトホルミンをのんでいる人/いない人を比べれば,確実に『メトホルミンをのんでいる人の方があらゆる面で健康的である』という結果が出ます.なぜなら糖尿病なのに,メトホルミンだけを飲んでいる人がいれば,その人は間違いなく糖尿病としては軽症の人,つまりそもそも健康体に近いからです.したがって,メトホルミンをのんでいる/のんでいないを比較したつもりが,実は糖尿病の軽症者と重症者とを比較してしまうからです.
ですから,メトホルミンの純粋な効果を調べるのであれば,ありとあらゆる面で条件を揃えて,ただメトホルミンの有無だけを純粋に比較した試験が必要なのです.しかし,そんな都合のいい試験を行うのは不可能です.
そこで,もう少し「メトホルミンとガン」との関係を厳密に調べた文献はないかいなと探していたらありました.
この記事で紹介した Target Trial Emulationの手法で,実際には実施困難な臨床試験を仮想的に行ったものです.

もちろん実際に行われたランダム比較試験(RCT)ではなく,仮想実験ですから,エビデンスレベルとしては落ちるのですが,それでも観察研究よりは説得力があります. この研究,つまり『メトホルミンをのんでいるか/いないかの純粋な効果を検証する仮想ランダム比較試験』の結果は【有意差なし】でした.メトホルミンに ガン予防効果は期待しない方がいいと思います.
そして,一時騒がれた『メトホルミンは帯状疱疹リスクを低減できる』という話も,同様に Target Trial Emulationで検討していますが,

これも否定されています. メトホルミンは帯状疱疹の予防薬にはなりません.
なお,これは ぞるばの偏見に満ちた個人的意見ですが,『帯状疱疹って,そんなに国民こぞってワクチンを打たなければいけないほど感染率が高いのか?』とは思っております.帯状疱疹感染を心配するのであれば,それよりも もっと感染確率の高い 肺炎ワクチンをまず接種すべきでしょう.




コメント