管理栄養士の学会[6] 信念の食事

【この記事は 第29回 日本病態栄養学会年次学術集会のレポートではなく,オンライン講演を視聴した ぞるばの感想です】

糖尿病に限らず,医師が投薬を薦めても,断固として拒否する『薬嫌い』の人は,少数ながら そう珍しくはありませんね.『薬=毒』という信念です.さらに糖尿病の場合には「薬はやむをえないが,インスリンだけは嫌だ」という人もいます. あの手この手の理屈をつけて逃げ回る患者と,何としてでも治療してやるという医師による 狐とタヌキの化かしあいを,吉本芸人 顔負けの寸劇で演じる「糖尿病劇場」というものも ありました.

信念の食事

病院で入院患者に院内食を出しても,信念から拒否する人もいます.しかし,その程度はさまざまで,単に好き嫌いにすぎない人もいます.特別講演に登場した石川県七尾市の恵寿総合病院 神野正博理事長は,また 全国 2,500以上の民間病院が加盟する全日本病院協会の会長でもありますが,こんなエピソードを話しておられました.

”患者の食事につける「食札」に【人参禁】と書かれていた. はて,「この人は人参アレルギーなのか?」と聞いたら,「人参が嫌いだそうです」という答え. 嫌いなら自分ではねればいいではないか.病院の経営は存続ギリギリであり,そんなことにまで付き合っていられない”

講演では,「アレルギー食」にまつわる悩みも披露されていました. アレルギーかどうかは 医師が判断できることもありますが,すべての患者にアレルギー検査は不可能ですから,本人 又は 家族の自己申告による場合もあります.

どのセッションか忘れましたが,こんな会話もあるそうです.

患者:昔 鯖を食ってあたったことがあるから,鯖アレルギーだ.(単なる食中毒?)

患者:卵アレルギーがある.昔 卵であたったから.
管理栄養士: それは いつ経験しましたか?
患者: あれは たしか戦前の...
管理栄養士: ええっ?

そして,この教育講演では,こういう好き嫌いや勘違いは別として「信念・宗教」上の理由から,栄養ケアが困難になるケースが紹介されておりました.

日本でも 外国人が来院することは多くなってきました. 当然 日本の食文化とはかけ離れた人もいます. 日本人の食文化・食習慣を前提としている栄養ケアは,こういうケースでは 非常に戸惑うようです.

また,宗教上の理由により,食事そのものが特異というものがあります. イスラムの人が典型的で,この場合は ハラールで認められたもの以外は,食事であれ,食材であれ,調味料であれ,一切 口にできないので,栄養学による助言とは無縁になります. ユダヤ教の場合も似ており,例えば ヒレと鱗のある魚は食べてもいいが,それ以外の魚は不可だそうです.つまり鰻重は食べられません.

ではイスラムの人が入院することになったら,院内食は どうするか? 在留資格を持つ外国人は,健康保険加入が義務付けられていますから,当然診療には応じる義務があります. 厚労省の 「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」(第4.0版)によれば,可能であれば対応するが,不可能な場合は,院外から購入 又は ご家族からの差し入れて対応してもらうしかないようです.

「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」(第4.0版) p.78 (C)厚労省

さらに,宗教ではないものの,個人の強い食信条(ベジタリアン,自然食志向など)の場合はどうしているのでしょうか?

講演では,極端な栄養不良やビタミン欠乏に陥りやすい食志向の人(完全菜食主義でビタミンD欠乏症を発症した実例を紹介)には,できるだけの説得はするものの,受け入れられない場合は 不足栄養を補充する医薬品投与など行うようです.健康になるための食信念を貫徹して 病院から薬をもらうのは 本末転倒の気もしますが.

  

  

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