糖尿病学会 感想4補足 高血圧に注意

前回記事で,『2型糖尿病とは,実は複数の異なる病気の総称にすぎない』という スウェーデンのAhlqvist博士の説が有力になってきたことを紹介しました.そして Ahlqvist博士は『異なる病気には,同じ治療法ではなく,それぞれの合併症リスクに対応した先制医療が必要だ』と提唱しています.

Ahlqvist博士は,『2型糖尿病と総称されているものは,実は4つの異なる病気だ』と主張しているのですが,

その中でも 特にSIRD(インスリン抵抗性 重度糖尿病;Severe Insulin-Resistant Diabetes)の危険性を繰り返し訴えています. なぜなら SIRDは,それほどHbA1cが悪化していない内から(したがって,本人も主治医も楽観している)腎機能の低下が急速に進行して人工透析に至るリスクが大きいからです.

たしかに糖尿病の合併症として腎症はよく知られています.ただし,『糖尿病診療ガイドライン 2024』にもこう記載されているように;

糖尿病性腎症(腎症)は,慢性的な高血糖状態に起因した腎構成細胞・組織障害と腎血行動態の結果生じる細小血管症である
糖尿病診療ガイドライン 2024 p.189

糖尿病腎症は,網膜症などと同様に,細小(微小)血管症の一つであるとしています.そして それは高血糖状態の継続により発生したものであるという説明です.しかしながら,それではSIRDのように,まだそれほどHbA1cが悪くない状態に急速に進行する腎機能低下を説明できません.

以下は ぞるばの私見です.学会の見解とは異なります

SIRDは糖尿病ではない

糖尿病腎症は;

糖尿病 → 高血糖持続 → 微笑血管の内皮障害 → 腎臓糸球体機能低下 → 尿細管障害

の機序で進行するとされています.

しかし,スウェーデン人(12,230人)とフィンランド人(4,631人)を対象に,遺伝子情報解析(GWAS) を行ってみたところ,Ahlqvist分類でSIRDの人は,それ以外のサブグループの人と全く異なる遺伝子プロファイルを持っていました.

Aetiological differences between novel subtypes of diabetes derived from genetic associations

SIRDの人は,糖尿病に関連する遺伝子として有名なTCF7L2を持っていなかったのです. その他の2型糖尿病のサブグループ(SIDD, MOD, MARD)の人には TCF7L2が見られたのとは 隔絶した特徴です.

また 糖尿病予備軍の人のクラスター分類を行ったこの研究では;

Wagner 2021

一部のクラスター(第6クラスター)では,追跡期間中に糖尿病予備軍から糖尿病に進展した人は高率(57%)で SIRDとなり,腎症リスクがとびぬけて高いことが判明しました. しかし,この人達の耐糖能やHbA1cは決して悪くはなかったのです. ただし,軽い肥満と内臓脂肪の蓄積は顕著でした.

この論文の著者は,腎臓のもっとも奥まったところにある腎洞(renal sinus)への脂肪蓄積が,SIRDを引き起こしていると推定しています.

(C) ケヴィンさん

腎臓全体が圧迫されて,それが レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)を活性化します. そしてRAASの活性化は、直ちに高血圧・インスリン抵抗性・動脈硬化症などを引き起こすからです.

Manrique 2009

つまり,SIRDは糖尿病ではなくて,高血圧により腎障害とインスリン抵抗性が発生し,後者のせいで あたかも糖尿病であるかのようにみえるにすぎないのです. ですからSIRDは 糖尿病の結果としての腎症ではなくて,高血圧の結果による腎臓障害・高血糖なのです(しつこいですが,これはぞるばの私見です).

実際 福島県立医大の島袋教授が,日本人の2型糖尿病患者 1,520人をクラスタ分析したところ;

Tanabe 2020
Tanabe 2020 Table1

SIRDに分類された人の腎症発生率は飛びぬけて高いことが見出されました.

Tanabe 2020 Table1より 一部を作図

SIRDの人が,糖尿病として通院していると,主治医はHbA1cだけを見て軽症だと誤認するかもしれません.

糖尿病で しかも血圧が高いのであれば,手遅れにならぬうちに,循環器医にかけこんで降圧治療と腎臓保護効果のあるSGLT2阻害薬投与を同時に行うべきでしょう.

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