前回記事 では,日本糖尿病学会が発行する治療ガイド・診療ガイドには,肥満型の糖尿病に対しては 事細かに治療指針が示されているのに対して,肥満でない場合,さらには痩せ型の人の場合には 特段の情報がない,もっとはっきり言えば ほとんど無視されていることを紹介しました.
とは言え,学会が 2022年9月に発表した『2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム』 では,
学会史上初めて 『肥満ではない糖尿病患者への投薬選択のガイドライン』が示されました.
上図の通り,肥満かそうでないかで,同じ2型糖尿病であっても,投薬方法はかなり異なっています.
(そうであるならば,食事療法だって相当異なるはずなのに,学会は この点については何も発表していません.ですから ぞるばの提案でも採用してはいかがでしょうか? >>学会)
学会が上記のアルゴリズムを発表したのは昨年のことですが,それでは 今まで 病院・クリニックでは どんな投薬選択がされてきたのでしょうか.
もちろん『面倒くさいから,2型糖尿病なら全員 DPP-4阻害薬を出しておけ』 という論外な病院は別にして,です.
JDDM研究
一般社団法人『糖尿病データマネジメント研究会』 という団体があります. 2001年に設立された団体で,現在の代表理事は 前川 聡 滋賀医大名誉教授です.
この団体は,全国から105の医療機関(2023年7月現在)が任意で参加しており,設立趣旨にも示されているように,糖尿病に関する治療・診療データを共有して研究する団体です. したがって,糖尿病に関するデータの収集と解析とを積極的に行っています.
また参加している医療機関は クリニック・開業医が多いので,大学などの研究医療ではなく,我々糖尿病患者が通院しているクリニックの実際の臨床医療データが豊富なことも特徴です.
このJDDMから,このような報告が出されています.
JDDMに参加している医療機関では,糖尿病患者にどのような投薬処方が行われてきたのかを整理・解析した報告です.
最近20年ほどの間に,いかに糖尿病の薬が大きく変容したかがよくわかる図です.
2009年までは あまり変化がなく,糖尿病の薬は5種類しかなかったのです. これにインスリン・GLP-1受容体作動薬という注射薬を加えて,この年までは医師の手持ちカードは7枚しかなかったのです(もっとも さらに昔は3枚しかありませんでしたが)
しかし,2010年にDPP-4阻害剤が登場して,状況は一変します. あっという間に普及しました. これにより,それまでは糖尿病薬のメインであったSU剤は徐々に使われなくなりました. その理由は,SU剤は どうしても突然の低血糖,それも重症低血糖をしばしば起こすので,医師も患者も冷や冷やしながら使っていたのですが,DPP-4阻害薬には まずその懸念がなかったからです.
さらに2014年に SGLT2阻害薬が登場すると,こちらは 肥満の人には ぴったりの薬だったので,それまで DPP-4阻害薬を投与されていた人の一部がこちらに切り替えられています. したがって,2016年には一時的に DPP-4阻害薬の処方率が減っています.その後もSGLT2阻害剤の使用はさらに増え続けているはずです.
BMIによって投薬傾向が違う
さらにこの報告の興味深いのは,患者のBMIによって 投薬傾向が異なることを解析している点です.
(なお,各分位のデータの分布範囲が極めて広いので,平均値ではなく,中央値で代表しています)
日本の肥満の基準とされる BMI=25を境にして(図中 赤線),全般に非肥満型の年齢は高く HbA1cは相対的には低いようです. これに対して 肥満型の人は年齢が若く,かつ罹患年数は短いにもかかわらずHbA1cはやや高くなっています.
そして投薬傾向を見ると,非肥満型では圧倒的にDPP-4阻害薬の使用率が高く,これにビグアナイド(=メトホルミン)が続いています.3位はSU剤ですが,現在ではこれはかなり少なくなっているでしょう.
ところが肥満型では,BMIが高くなるにつれて SGLT2阻害剤の使用割合が高くなっていて,これは作用機序からみて妥当でしょう. ビグアナイドも大多数の人で使われています.
そして 図の一番下の円グラフに示したように,BMIが高くなるにつれ,多剤併用者が増えています. BMIが18.5未満の痩せ型の人では,[単剤 及び 2剤]で6割なのに,BMIが35以上の人では 3剤以上の人が過半数なのです.
この結果を見ると,日本糖尿病学会が投薬アルゴリズムを発表する以前から,少なくとも研究熱心な医師の間では BMIに応じた投薬の使い分けを実行してきたことがみてとれます.
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