聖書が説く『人は神が創造された』という『創造説』 は，米国最高裁によって，またそれをアレンジした『インテリジェント・デザイン説(ID説)』も，ペンシルバニア州地裁によって，共に宗教教育であり違憲であるとの判決が出されました．
米国では カンザス州などの西部・中部の州は，キリスト教について保守的な考えを抱く人が多数派です． 私を一晩泊めてくれた大農場主も やはり敬虔なキリスト教徒でした．
カンザス州 1999年
カンザス州は 1999年に,州内の公立学校で実施される「科学カリキュラム基準」を制定する際に，進化論を必須項目として取り入れるかどうかで教育委員会が紛糾しました.[PDF]
当時の教育委員は10名中6名が保守派だったため，『聖書という信頼できる証拠に基づくと，生物進化は存在しない』などという表現をも含む「科学カリキュラム基準」が採択されてしまったのです．ただし，完全に進化論を排除したのではなく，州が実施する標準学力テストの範囲に進化論を含めない，進化論を教えるかどうかは州内各地の教育委員会が決定してよいとするものでした．
しかし，それでもこの決定は大ニュースとなりました． 教委のこの決定を支持した市民団体の一人が『聖書には地球が平らだと書かれている』などと述べたことなどから，あまりにも時代錯誤だとして，全米の新聞ではカンザス州を 『平らなカンザス州』などと揶揄する記事も出ました(実際，カンザス州は大平原が広がっていますけど)． 特にこの時点では，1987年の米国最高裁判決で『公立校での宗教教育は違憲』と確定していたのですから，州知事を始め，州内の大学・企業から猛反対が起こりました．
ただ，カンザス州の教育委員は選挙制であり，次の選挙で 進化論に反対する委員が落選したため，2001年には「カンザス州 科学カリキュラム基準」は，全米科学アカデミーが推奨する基準，即ち 進化論を生物の授業で教えるよう改正されました．
カンザス州 2005年 再び
ところが，東部のペンシルバニア州で，高校の生物の授業にID説を導入しようとする教育委員会と それに反対する市民との間で大揉めになっていた， まさにその2005年11月に カンザス州でも，またもや1999年と同様の事態が発生しました．州教育委員会が『ダーウィンの進化論に対する批判(つまり ID説)も教える』ことを義務化したのです．
ただこの決定も，翌年教育委員が改選されると，ID説義務化を主張した委員が全員落選したため，結果的には 『ID説の学校教育』は 行われませんでした．
スパゲティ・モンスター教
上記のカンザス州教育委員会で，ID説の学校教育導入が審議されていた時，オレゴン州立大学物理学科を卒業したBoby Henderson は，進化論，ID説と並ぶ『第三の科学的な進化説』を提案して これをカリキュラムに採用するよう提案しました．
それがスパゲティ・モンスター教 (以下 『スパモン教』)です．
『スパモン教』では，生物の進化などは 地球のはるか上空に存在する スパゲティ・モンスターが，その長いパスタ状の触手を伸ばして，生物を巧みに操ってきたのだと説きます．
これは，ID説ではどうしても答えられなかった，『高度な知性は，どうやって生物を精密にデザイン(設計)したのか』という質問に 実に具体的な回答を与えるものでした．
よって，Hendersonは，『スパモン教』はID説を否定しているのではなくて，むしろ補強しているのであるから，進化論とID説の両方が教えられるべきだというなら，これも『学説』の一つとして学校教育に採用すべきだと提案する書簡を送りました[★]．
[★] この提案に対して，教育委員の一人は『神を茶化すとは，この罰当たりめ！』と返答してきたそうです． はて？ ID説には『神』は登場しないはずなのですけどね．
そして，カンザス州教委がこの提案を拒否すれば，『進化論に関する学説は，それが「科学的な」ものであれば 差別せずに併行して教えなければならない』という，1987年米国最高裁判決に違背するから訴訟を起こすと言明しました．
お分かりの通り，これはID説を からかっているのです．
しかし，これは インターネットの世界で ウケました．たちまち『スパモン教』信者は世界各国に広がり(日本にもいるような．．．)，今では 『スパモン教』中央教会まで設立されていて，
信者にはIDカードも発行されていますし，
さらに 教義を解説した うやうやしい『福音書(Gospel)』まで存在しております．
あなたも 今すぐ改心して 『スパモン教』に入信しないと，このように地獄で灼かれることになるでしょう．
『科学を装った宗教』とは こういうものだよと，『スパモン教』は教えているのです．
[続く]
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