パンチの力:インパクトファクター

インパクトファクター Impact Factorというものをご存じでしょうか.
直訳すると 『衝撃因子』です. パンチの強さでも表すものかと思っていたら;

(C) しのこ さん

学術(医学に限らず)雑誌の,影響力の強さを表す指標です.つまり『格付け』ですね.

現在 世界には 数万の学術雑誌があるようですが,有名な雑誌,例えば NatureScience に掲載されると その論文は高く評価されます. なぜなら これらの雑誌に論文掲載されたということは,極めて厳しい査読にパスして,価値ある内容と認められたからです. したがって,それらの論文は その後に発表される論文でもよく引用されます. ある論文が多く引用されるということは,その論文の内容を抜きにしては次が語れないからです.

この 『掲載された論文がどれくらい他の論文で引用されたか』すなわち その雑誌の影響力を数値化したものが インパクトファクター Impact Factor=影響力 です.

インパクトファクターは次の式で計算されます.

つまり,その雑誌に掲載された論文が どれくらい他の雑誌に引用されて影響を及ぼしたか,という指標です. ですから,同じ雑誌内の引用はカウントしません.他の雑誌への引用のみがカウントされます. また何度も引用された場合はその述べ回数でカウントします.

他の論文から引用されることの多い論文を多数掲載すればするほど,その雑誌の影響力が大きいことがわかります.

この記事で 『一流どころの医学誌』と書きましたが,これら 一流科学・医学雑誌のインパクトファクターは以下の通りです.

()内はインパクトファクターを計算した年度です.計算は上式の通り 毎年計算されるので,年によって変動します.
この数字を見れば,これら有名医学誌の影響力がいかに大きいか よくわかります. NEJM(New England Journal of Medicine)に掲載された論文は,平均的には その後2年間にわたり100回近くも引用されているのですから.

オンライン出版のみで,誰でも無料で閲覧できる科学誌として,2006年に創刊された Plos One というものがありますが,

Plos Oneが発行された時には,『自費出版』『金さえ払えば どんなヘンテコ論文でも掲載する』と陰口をたたかれていましたが,最近は掲載基準が厳しくなってきたようです.しかし,それでも NatureやScienceには まだまだ及ばないうようです.

糖尿病関係の医学誌でみるとこうなります.

米国 糖尿病学会誌では

また 欧州糖尿病学会誌は

それでは,我が日本糖尿病学会も 英文誌 Diabetology Internationalを発行しているのですが,これはどうなのでしょう.

残念ながら,Diabetology International はインパクトファクター計算の対象にすらなっていません. インパクトファクターの計算対象に登録されるのにも 一定の審査があり,基準を満たさないと登録してもらえない,したがってインパクファクターの計算すらしてもらえないのです.ただし 本年10月 日本糖尿病学会から,ようやく 来年から登録されるとのアナウンスがありました.これでようやく 土俵に上がれるわけです.

[2023.07.04 追記: 2022年のDiabetology International誌のインパクトファクターが 2.2と発表されました. 初出としては まずまずの数字ですね]

なお,インパクトファクターは『その雑誌に掲載された論文が,どれくらい他の雑誌に引用されたか』と雑誌単位の評価であり,個々の論文の評価ではありません.つまりインパクトファクターの高い雑誌に掲載されている論文すべてが影響力が高いものとは限りません. 実際には特定のテーマや特定の著者群の論文に高い被引用率が集中しているようです.

また トンデモ論文 を掲載すると,『こんなアホなことを言っている奴がいる』と,逆の意味での引用が多くなるので,一時的に その雑誌のインパクトファクターが高くなることがあります. よく見分けましょう.

コメント

  1. highbloodglucose より:

    >ですから,同じ雑誌内の引用はカウントしません.他の雑誌への引用のみがカウントされます.

    あら、そうだったんですか!
    IFの正しい定義を気にしたことがなかったので、単に「引用回数」だけだと思ってました。
    昔の話ですが、とある日本の臨床系学会誌では、論文を投稿する際にはこの学会誌に掲載された論文を少なくとも3報引用するよう、暗黙のルールがあった記憶があるんですよね。IFを上げるためだったと思うのですが、これは無駄な工作だったということかな? 弱小学術誌の涙ぐましい努力だったのに…w(ちなみに、わたしが知っている頃はたしかIFは3台だったと思うのですが、2021年は5台と検討している模様)

    IFの高いジャーナルにアクセプトされるかどうかは、有名大学かどうか、ビッグラボかどうかも大きいみたいですねぇ。
    プロテアソームを発見した田中啓二さんの話で、徳島大にいたころに自分ではこれはすごい論文だ!と思ってNature(だったかな?)に投稿したけど全く相手にされず、地方の大学ではなかなか採用されなくて口惜しかった…みたいなことを苦笑交じりに話されていた記憶があります。(ただし、客観的に見てNatureが興味を示しそうな内容だったのかどうかは不明)

    あるいは、アメリカのとあるビッグラボに留学していた人の話では、ボスが論文をScienceに載せようとゴリ押ししたんだけど、結局はダメでJournal of ○○になった…とか。
    この場合はゴリ押しが上手く行かなかった例だけど、もう少し採用ボーダーラインの論文であれば、ボスの力加減ではなんとかなってしまうものなんだろうなと思いました。

    • しらねのぞるば より:

      >単に「引用回数」だけだと

      はい,私もそう思っていました.今回調べたらそのようです.他雑誌への影響力の尺度なのですから,まあ当然ですね.

      >少なくとも3報引用するよう

      Back Numberを取り寄せさせて 一人でも定期購読者増加に結び付けたいという作戦でもありますね.

      >ビッグラボかどうか

      留学希望者が殺到するはずですよね.同じ内容の論文でも,採用される確率が高まるのであれば. そして高名な教授にはますます人と金が集まります.

      Lagiouの論文だって;

      https://www.bmj.com/content/344/bmj.e4026

      兼務/ハーバード大学がついていなければ,到底アクセプトされたとは思えません.