今年の1月に第24・25回日本病態栄養学会が2年ぶりに開催されました.
この学会は,全国の管理栄養士と臨床栄養学に関心の深い医師などが参加する学会です. 学会名称の通り『患者の病状に応じた栄養管理が行われるべきだ』という理念の基に,現理事長 関電病院の清野裕先生が1998年に設立しました.学会ですから,原則として医師や管理栄養士が参加するのですが,一般社会人にもオープンです.参加登録料さえ払えば誰でも参加できます. なに,身だしなみだけは気をつけて,かつ 医者みたいな顔をして(どんな顔?)会場を歩いていれば,つまみ出されることはありません.
今回も 糖尿病を始めとして 高血圧・脂質異常症などのいわゆる生活習慣病や,ガン・腎臓病などの重度疾病,さらには 妊娠・高齢化など臨床栄養管理が必要とされるテーマについて,幅広い講演・シンポジウム・一般発表(口演)が多数行われました.
私は単なる2型糖尿病患者ですが,もう10年以上この学会に野次馬参加しています. 『正しい糖尿病の食事療法はこうです』という,当時の学会パンフレットを信じたばかりにひどい目にあったからです.それ以来,新聞・テレビや健康雑誌などのメディア情報,あるいは真偽不明のネット情報などに流されるのではなく,自分の目で情報を取捨選択すべく,日本糖尿病学会,日本病態栄養学会に聴講参加したり,国内外の糖尿病に関する医学文献を集めて読んでいます.
毛色の変わった講演
これだけ学会に参加していると,いろいろなことがわかってきます. 糖尿病学会にせよ この病態栄養学会にせよ,毎回 何らかのテーマをかかげてそれぞれの特色を打ち出そうとしていることも理解できます.
今回の第24・25回日本病態栄養学会で言えば,『~からだの栄養と心の栄養を考える~』(第24回),『地域の医療を地域で守るために』(第25回)をサブテーマにあげています. 前者は 患者だけでなく医療に携わるすべての関係者のメンタルな問題も考えてみようというものであり,後者は 医療を病院内だけでとらえるのではなく,地域の保健・福祉介護[★]まで含めた全体で考えるということです.
[★] 年初早々 私の実家の老母が緊急入院→施設入居となりました.ようやく一段落しましたが,地域包括ケアシステムのありがたさを つくづく実感しました.
今回も糖尿病に関して興味のある講演・一般発表を一通りWEBで視聴しました.たしかにこれらのテーマに即した講演は興味深いものでした. 学会非会員の参加費用は20,000円と 決して安くはないです.しかし新聞購読料の月額4~5,000円や,NHKの受信料(BS含)2,000円強/月と比較した場合,通り一遍ではない専門的な情報がまとまって得られるという意味において,新聞やテレビの情報などとは比較になりません.断然お得だったと思います.
ところで,今回のシンポジウム・講演の中で『ん?』と感じたものがありました. 下記の2つです.
【A】シンポジウム 5 『医学教育における病態栄養学の現状と課題』
【B】シンポジウム13 『ケトン体の生理的意義を考える』
それぞれのシンポジウムの感想については,この記事と この記事に書いた通りです. しかし『ん?』と思ったのは
【「患者の栄養管理を考える」はずの日本病態栄養学会で,なぜ こういうテーマのシンポジウムを行ったのだろうか?】
という点です,つまり通常のこの学会のテーマとしては,かなり異色なのです.こういう観点でのものは 過去にはみられませんでした.どうしてこれほど毛色の変わったシンポジウムを設定したのか,学会幹部の意図はいったい何だったのだろうか,こういう企画は何を目的としたのだろうかと,いろいろ勘ぐりたくなります.
ひょっとしたら
あくまでもひょっとしたら,なのですが,こう考えています.
ヒントはこのシンポジウムです.
【C】コントラバシー1 『食品交換表を栄養指導に利用する是非』
Debateの形式で,今後 糖尿病患者に栄養指導・食事療法指導を行うにあたって,従来のように『必ず食品交換表にしたがってください』とやるのは いいことなのか,それともそれは不適切なのか,という討論会でした. その内容は下記の記事に書きましたが,
この討論会では,もはや『患者に食品交換表を暗記させ,その通りに実行するよう求めるのは適切ではなく 効果も上がらない』ことが示されました.
おそらく一部の人を除けば,全国の管理栄養士の実感はそうだろうなと思います.
しかし,患者に直接栄養指導を行う管理栄養士がそう思ったとしても,権限を持っているのは医師です. この記事にも書いたように,全国の糖尿病専門医が開業しているクリニックを無作為に50軒 調べてみたところ,相変わらず『食品交換表に基づく正しい糖尿病食事療法』を行っているところが最大派閥でした.現状はまだこうなのです. こういう病院の医師の先生方を説得するために;
- 先生,あなた方は 栄養学の講義をろくすっぽ受けてこなかったから,栄養学の知識に乏しいんでしょう?←【A】『医学教育における病態栄養学の現状と課題』
- 食品交換表にこだわっていては 効果があがらないと管理栄養士も言ってます←【C】『食品交換表を栄養指導に利用する是非』
- だいたい 糖質を減らすとケトン体が増えてケトアシドーシスを起こす,ってそれ あまりにも古い知識ですよ!←【B】『ケトン体の生理的意義を考える』
と,こういうしつらえではないでしょうか.
単にこれまでのガイドラインにそう書いてあったからという理由で,あるいは 自分は栄養のことはよくわからないので とにかく過去のガイドライン通りにしておけばいいだろうという理由で,食品交換表でガチガチに規定した高糖質の病院食をかたくなに守らせようとする医師はまだまだ全国的には多いのです.しかし糖尿病学会が『糖尿病食事療法の個別化』を打ち出した以上,そういう医師には 認識をあらためてもらわねばなりません. スジとしては,栄養学の専門家である管理栄養士が医師にそういうべきなのですが,医師とはプライドの高い人種です. 管理栄養士がそんな提案でもしたら,かえっていきり立つ人もいるでしょう.
ですから,いつまでも食品交換表に固執する医師に対して『私が言ってるんじゃないのです.学会でこう聞いたのです』と,支援すべく このようなシンポジウムの組み合わせを設定したのではないでしょうか.
もしもこの邪推が当たっていれば,5月に神戸で開催される第65回日本糖尿病学会においても,やはり『有用なケトン体』が随所で強調されるでしょう.
とっても濃い
そういうわけで,上記の『ケトン体の生理的意義を考える』というシンポジウムは 異例に内容が濃かったのでしょう. 明らかにこれは医師に向けた内容です.ケトン体について 現状 最新情報の集大成でした.
これより内容が濃いものは 私にはこれぐらいしか思いつきません.
(C) オリバーソース
そこで,このシンポジウムで紹介された『最新のケトン体情報』を 次に考えてみます.
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