糖尿病でなくとも食後のグルカゴン分泌は増加する
グルカゴンは 必ずしもインスリンと相補的,つまり[インスリンが増えるとグルカゴンが減る],あるいは [インスリンが減るとグルカゴンが増える]という単純なシーソーのような関係ではないことが見出されました.
さらに 糖負荷試験よりも糖質量の少ないテスト食(したがって血糖値上昇は小さい)の食後では,インスリンとグルカゴンが同時に増加するという現象もみられました.グルカゴン分泌の多寡は,糖質量だけで決まるわけではないようです.
この点について,今年の日本糖尿病学会での北村先生の講演では紹介されませんでしたが,先生は つい先日(6月28日) こういう論文を発表しています.
まだ受理(accept)だけされた段階で,未校正の速報(pre-proof)原稿です.したがって,最終掲載時には 文面が変わるかもしれませんから,北村先生は学会講演で引用しなかったのでしょう.
蛋白質/脂質/糖質 グルカゴンを上げるのはどれか
この報告はマウスの実験です.
正常なマウスと 遺伝的に肥満型糖尿病を発症するマウス(db/db)とに,
- 蛋白質だけ(=ホエイプロテイン),
- 脂質だけ(=イントラリポス;精製大豆油からなる静注用脂肪乳剤),
- 炭水化物だけ(=ブドウ糖)を摂取させて,
その前後の血糖値及び血中インスリン/グルカゴンの変化はこうでした[上記文献より].
血糖値
正常マウス[対照]でも,糖尿病マウス[db/db]でも,蛋白質[左]・脂質[中]・糖質[右]のどれであっても,血糖値は上昇しています. もちろん正常マウスでは,糖質以外では上がり方は小さいです.しかし,糖尿病マウスでは,どの場合も正常マウスより大きく上昇しています.
インスリン
一方,インスリンはきわめてはっきりしています.
正常マウスでは 脂質でまったく変化なし. 糖質は有意ではありますがごくわずかな分泌で済んでいます. そして蛋白質では有意ではないものの ごくわずかな上昇です.
しかし,糖尿病マウスでは,驚くべきことに糖質摂取後のインスリン増加よりも,蛋白質摂取後のインスリン増加の方がはるかに大きかったのです.
グルカゴン
なぜこうなったのでしょうか? それは下のグルカゴンの変化を見るとわかります
糖尿病マウスでは,蛋白質を摂取するとグルカゴンが大量に分泌されていたのです(正常マウスも有意ではありませんが増加傾向です). 逆に糖質摂取ではグルカゴン分泌は食前に比べて減少するという教科書通りの反応でした.
以上の結果は,『血糖値はインスリンでコントロールされている』『インスリンとグルカゴンは正反対の作用をする』という,ありきたりの教科書的解説では説明できません.特に蛋白質に対するグルカゴンの挙動は驚きです. 従来の不正確なグルカゴン測定法では見えていなかった姿が明らかになってきました.
[20]に続く
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