第64回日本糖尿病学会の感想[17] 『グルカゴンの反乱』のその後-3

正常な人[健常群]と肥満者の多い2型糖尿病の人[糖尿病群]とに,それぞれ 75gブドウ糖負荷試験と,それよりは糖質量がやや少ない(=56g)医療用のゼリー食とを飲んでもらい,血糖値とインスリン値の変化を追跡したところ,

たしかに,血糖値の上がり方やインスリン値の上昇は,[糖尿病群]>[健常群]であり,これは予想通りです.しかし[糖尿病群]でも[健常群]でも,テスト食は糖質が少ないのに(したがって血糖値の上昇もブドウ糖負荷試験よりも穏やかなのに)インスリン分泌は増えました. ここまでが前回の結果です.

なぜこうなったのでしょうか?
それは サンドイッチELISA法で ほぼ正確に測定された血中グルカゴン濃度の変化を見れば理解できます.

[健常群]では,ブドウ糖だけを飲むと,直ちにグルカゴンが低下しました.『グルカゴンはインスリン拮抗ホルモンである』という通説通りです. しかしテスト食では,逆にグルカゴンが増えています

[糖尿病群]では,ブドウ糖負荷試験前,即ち空腹時に既にグルカゴンが[健常群]より高く,したがって空腹時血糖値も高い.更にブドウ糖を飲んでもグルカゴンはむしろ一時的に増加して,しばらくすると低下する. したがって糖尿病患者は糖負荷試験中の血糖値が正常よりも高くなる.これも通説通りです.ところが,テスト食負荷試験を見ると,糖質量が少ないにも関わらず,こちらでもグルカゴンの上昇が更に極端になっています

『グルカゴンはインスリンの拮抗ホルモンである』という単純な解釈では,この現象は説明できません.

なお,その他のGLP-1や GIPの変化も調べておりますが,

どちらも,[健常群]と[糖尿病群]の間で本質的な差異はありません.

つまり,

『血糖値は インスリンによってコントロールされている』
『グルカゴンはインスリンと正反対の作用を示す』

という,従来の単純明快な定説だけでは,この現象を説明できないのです.

グルカゴンは いったい何をやっているのでしょうか?

[18]に続く

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