第64回 日本糖尿病学会は 6/7~21に 主な講演・口演がオンデマンドで配信再開されますが,その感想は 興味あるものを一通り視聴し終えてからにいたします.
で,その間を利用して『加齢と糖尿病』の問題をひとくさり考えてみたいと思います.
いやあとっくに高齢者デビューしていますから,いやでも向き合わなければならない問題であります.
そもそも『高齢者の糖尿病』と言った場合,二つの意味があります.
一つは 中年以前に糖尿病を発症した人が高齢者になった場合,そしてもう一つは高齢になってから糖尿病を発症した場合です.
前者は若い頃からの糖尿病が継続しているというだけです.
それでは 高齢になってからの糖尿病は,加齢が糖尿病の原因なのか,そして 加齢による糖尿病は 中高年以前の糖尿病と何か違いがあるのか,ということです.
そこで,まずは 日本糖尿病学会の公式見解を見てみましょう
糖尿病診療ガイドライン 19章『高齢者の糖尿病』
このガイドラインでは,高齢者糖尿病についてこう書かれています.
- Clinical Question:高齢者糖尿病はどのような特徴があるか?
- 食後の高血糖や低血糖を起こしやすく,低血糖に対する脆弱性を有する
- 腎機能低下などにより薬物の有害作用が出現しやすい
- 動脈硬化の合併症が多い
- 認知症・認知機能障害,うつ,ADL低下,サルコペニアなどの老年症候群をきたしやすい
『糖尿病診療ガイドライン 2019』 p.319
などと書かれています.ただし これらのほとんどは 老化現象そのものであって,非糖尿病の高齢者であってもみられる現象です.つまり純粋に『高齢化に由来する現象』と『糖尿病に由来する現象』とが切り分けられていません.むしろ 加齢・高齢化による身体諸機能の衰えが糖尿病症状をより強くしているだけであって,これは糖尿病に限らずすべての疾病についていえることです.
糖尿病治療ガイド 2020-2021
専門医ではない一般医師が糖尿病患者を治療する際の手引きとして発行されているものです.このガイドには;
後期高齢者と,老年症候群がある一部の前期高齢者の糖尿病は,治療上とくに注意を要する
『糖尿病治療ガイド 2020-2021』 p.103
とあり,以下その『治療上の注意』が続きます. ですが,特に高齢者に特有の発症機構があるのかどうかなどには触れていません.
そこで,高齢者の糖尿病に特化した次のガイドを見ると;
高齢者糖尿病治療ガイド
一般的な2型糖尿病の記述の後に,特に 高齢での糖尿病発症に関して;
高齢期に糖尿病が増える原因は.加齢に伴う膵β細胞でのインスリン分泌低下,体脂肪量増加や骨格筋量低下によるインスリン抵抗性増加.身体活動量低下などが考えられている
『高齢者 糖尿病治療ガイド 2021』p.15
とあり,ここで 初めて 高齢者糖尿病の発症原因についての説明が登場しています.
ただし,この説明でも やはり加齢現象を述べているだけであり,同じように高齢でやせ細っている人でも,糖尿病になる人/ならない人 の差がどこにあるかは説明していません.
いずれにしろ 以上の資料は,糖尿病の診療 又は 治療のガイドラインなので,糖尿病発症の原因やメカニズムはどうでもよくて(とは思っていないでしょうが),いかに適切な診察・治療を行うかに力点が置かれるのはやむをえないでしょう.
ところが最後に この資料を見たら 『おやっ?』と思う記載がありました.
[2]に続く
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