現在の糖尿病分類が1型/2型/それ以外に少数の糖尿病なのに対して,
Ahlqvist博士は ,1型/2型を新たに5つに分類すべきと唱えています. その考えに従えば,現在の2型は4種類になります.
この博士の提案に対して,世界の臨床医からは,
そんなに単純に分類できるものではない. 特に2型糖尿病の病態はひとりひとり違うのだ
という異論が上がりました.
Ahlqvist博士は,最新の論文 で,『4通りに分類すること自体が目的なのではない. 合併症がPredictableな(予知可能な)タイプが4種類あるのだ』と答えています.
日本糖尿病学会は 1,000万通り
この論争に関して,日本糖尿病学会の立場はどういうものでしょうか?
日本人の2型糖尿病について,日本糖尿病学会の公式の見解はこの通りです.
[2型糖尿病の発症機構]
インスリン分泌の低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に過食(とくに高脂肪食),運動不足などの環境因子が加わってインスリン作用不足を生じて発症する.
[2型糖尿病の肥満度]
肥満または肥満の既往が多い
以上 『糖尿病治療ガイド 2020-2021』
(C) 日本糖尿病学会
以上の通りで,そもそも『痩せた糖尿病患者』は, あまり眼中にないようですが,その治療指針としては;
糖尿病のコントロールを行うとともに,合併症の有無をチェックし,合併症があれば,それに対する治療も行う必要がある
『糖尿病治療ガイド 2020-2021』p.35 治療方針の立て方
であって,ここでいう『糖尿病のコントロール』とは
血糖コントロール指標では.HbA1cを重視し
『糖尿病治療ガイド 2020-2021』p.32 血糖コントロールの指標
そして,この指針に基づいてたてた 第4次「対糖尿病戦略5ヵ年計画」では;
2型糖尿病の病態は,インスリン分泌能低下とインスリン抵抗性がその根本にあるが,臨床的に有用なそれぞれの絶対的な指標は未だ存在しない.さらに,それらの経時的変化の予測もできていない.
第4次「対糖尿病戦略5ヵ年計画」p.6:日本糖尿病学会
のであるから,
具体的には「J-DREAMS」のデータを用いて,わが国独自の糖尿病の合併症や治療によるQOLの低下度,各種合併症の正確な発症率などに関するデータを整備し,
第4次「対糖尿病戦略5ヵ年計画」p.7:日本糖尿病学会
日本に1,000万人いると推計されている糖尿病患者一人一人に最適な1,000万とおりの個別化医療構築を目指す.
第4次「対糖尿病戦略5ヵ年計画」p.6:日本糖尿病学会
すなわち,Ahlqvist博士の4通りの治療戦略ではなく,1,000万通りの個別化医療 構築を目標としています.
ただし 日本糖尿病学会のこの方針は,それがいつ完成するのか,ということはさておいても,基本的に『後追い・後手』の対応しかできません.患者ひとりひとりを注意深く診察して,と言えば聞こえはいいですが,つまりはどんな合併症が いつでるかわからないので,合併症が発生したら,そこで手を打とうというものです.
それに対して,Ahlqvist博士は 糖尿病の新分類を提案しただけではないと述べています.博士は
『合併症発生に先手を打とう』
と提案したのです.
しかし,現在の学会の考え方は,患者の病態を注意深く観察して,その都度 最適治療を考えるというものです. 悪いことではないように聞こえますが,基本的には後追いの考え方です. 『後追い』がなぜ悪いのか,それは次の記事にて.
[24]に続く
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