2013年3月に日本糖尿病学会から,「糖質制限食は勧められない」という『2013提言』が出され,それを受けて同年11月に発行された『食品交換表 第7版』には,わざわざ一項目を設けて『糖質制限食は危険だから行ってはならない』とまで書かれたのに,2014年以降は,糖尿病の食事療法に関する討論は,それ以前よりももっと激しくなりました.
これらの討論などの件名を見ると,以下の通りです.
このテーマ名 おかしくないでしょうか? 『エビデンス』『Evidence』という言葉がやたら目立ちます.
- 1993年に食品交換表第5版において,炭水化物=60%,蛋白質=15%,脂質=25%が理想の比率だと高らかに宣言し
- その栄養バランスは世界が賞賛していて
- したがって 和食は世界の健康食
であったはずなのに,どうして今さら 『食事療法のエビデンス』を求めなければいけないのでしょうか?
また,『2013提言』や,『食品交換表 第7版』において,『実行してはならない』とされたはずの『糖質制限食』『低炭水化物食』という言葉が,学会のシンポジウムの件名で 平然と使われています.
ひょっとして,食品交換表のエビデンスなんて そもそも,なかったのでは? まさか....
[48]に続く
コメント
日本病態学会2018年の年次学術集会の「討論:低炭水化物食はSGLT2阻害薬と同じ?」の結果が気になるところです。
私も糖質制限食+SGLT2阻害薬を試したことがあり、そのころ、同じことを考えました。
糖の再吸収を阻害して、尿に糖を排泄すると言う事は、糖質制限そのものではないかと。
そして案の定、糖質制限には良い顔をしない医師でもSGLT2阻害薬なら処方すると言う私から見れば矛盾だらけの事が起こりました。
しかも、SGLT2阻害薬には腎機能を保護する効果もあると認めながら、糖質制限で高たんぱくになれば腎症のリスクがあるとこれまた矛盾だらけの説明で混乱を招きました。
私が糖質制限食にSGLT2阻害薬を加えたのは、糖質制限で体内の糖を減らしつつ、さらに多様な食材を摂取するためです。要するにいろんなものを食べて、純粋に不要な糖だけを排泄するためです。糖質制限食では、どうしても食材が限られ、微量栄養素に偏りがあったり、食材そのものが入手困難な状況もあります。糖質40g/日程度が私が許容できる限界でした。その状況に適応するのに最適な薬剤でした。
体内の糖は極限まで減少し、ケトン体濃度が5000μmol/L以上にまで上がることもあり、暁現象も起床時からの上昇も抑えられ、血糖値が安定しました。
ただ1点、糖質制限とSGLT2阻害薬との違いがあるとすれば腸内環境に対する効果です。食べないのと食べた後に排泄するのでは腸を通過するかしないかと言う事は全く違います。
SGLT2阻害薬の効果は糖質制限の効果以外に腸内環境への効果もあるのではないかと考えています。
何れにしても学会ではSGLT2阻害薬の効果と糖質制限についてはどう考えているのでしょう。
>日本病態学会2018年の年次学術集会の「討論:低炭水化物食はSGLT2阻害薬と同じ?」の結果
このシンポジウム講演の抄録は下記から閲覧できます.
第21回 日本病態栄養学会 抄録集
p.114のシンポジウム S4-3です. このシンポを聴講した感想は江部先生のブログで報告した通りです.
福井先生は抄録集に
『SGLT2阻害薬では高たんぱく食・高脂質食になることはなく,また継続も困難ではないことが相違点となります。』
と書いていますが,あたかもSGLT2阻害薬を服用すれば自然にそうなるかのような書き方は不適切ですね. ここは『SGLT2阻害薬を服用していても,高たんぱく食・高脂質食にする必要はない』と言いたかったのでしょう. しかし SGLT2阻害薬を服用しながら高糖質の食事をしていたら,薬の効果を減殺させるだけです.
SGLT2阻害薬が登場してからもう7年ですが,いまだにこの薬の服用に最適の食事療法はあるのかとか,そもそも学会推奨の食事療法そのままでいいのかなどといった情報は 公式には何もありません.
昨年出された『糖尿病診療ガイドライン2019』では;
『(SGLT2阻害薬服用と同時に)極端な炭水化物制限を行うと高血糖を伴わない糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こす可能性がある』(p.79)
とのみ書かれていますが,ではこの薬でどういう食事にすべきなのか 一番肝心なことについては一言も触れていません.
さらに 糖尿病ネットワークにはこういうQ&Aがありますが,
『SGLT2iと糖質制限食とは同じことと考えて良いでしょうか? またSGLT2i服用時の食事療法は?』
こういう質問を設定しておきながら,回答の最初に『適切な食事療法は特に重要です』とあるだけで,その『適切な食事療法』が何なのかは書かれていません.
学会報告でも,積極的にSGLT2阻害薬と食事療法の関係を述べたものはまだないようです.
この理由を推察すると,現時点では,SGLT2阻害薬は,比較的若く,かつ高度肥満の患者に投与されることが多いので(これが一番リスクが少ない)体重さえ落ちるのなら あまり食事のことなど気にしていない,というのが本音ではないでしょうか.