食事療法の迷走[26] HbA1cが低いと合併症も少ないとわかった

DCCT

少し年代をさかのぼりますが,1993年にDCCT( The Diabetes Control and Complications Trial)という臨床研究の結果が発表されました.

N Engl J Med 1993; 329: 977-986

論文のタイトルは『インスリン依存性糖尿病における長期の合併症 発症ならびに進行に及ぼす強化療法の効果』というものです.

この研究結果により,

HbA1cを低くコントロールすれば,合併症の発生率が低い

ことが明らかになりました.
今でこそ『そんなこと当たり前じゃないか』と思われるかもしれませんが,当時はまだ『そんなこと』すら明確ではない時代でした.とりわけ,糖尿病患者がHbA1cをどれくらい下げれば,どれくらい合併症リスクが減るのかまったく不明だったのです.

DCCTの方法

方法は以下の通りで,非常に丁寧に計画された臨床研究でした.1型の,しかも比較的若い人だけを対象にしたのは,体内のインスリン分泌はないという意味で条件がそろっている,そして加齢の影響も考えなくてよいからです.

なお,強化療法と通常療法で『インスリンの1日の注射回数が違う』にどういう意味があるのかが,現在ではわかりにくくなっています.

当時はまだヒトインスリンがようやく実用化されたぐらいで,現在のように持効性や速効性のインスリンは登場していなかったのです(速効性インスリン『ヒューマログ』の発売開始は1995年).現在ではあまり使われなくなった,持効性でも速効性でもない『レギュラーインスリン』しかなかったのです.注射しても全身にいきわたるのは1~2時間後,しかも緩やかなピークを描くので食後高血糖の抑制には全然間に合いません. したがって,インスリンの注射回数が少ないということは1回あたりのインスリン単位が多くなり低血糖を起こしやすいか,それを恐れてインスリン単位を減らすと血糖値が上がってしまう,つまり『回数が少ない』=『血糖値変動が激しい』だったのです. したがって 当時の理想としては,できるだけ頻回に少量のインスリンを注射する方法しかなかったのです.今でいうインスリンポンプをできるだけ手動操作でやろうとしたのです.なおDCCTでは 当時珍しかったインスリンポンプも,可能な場合は使われています.

DCCTの結果

強化療法群では,きめ細かい指導[]と頻回のインスリン注射によって,下図の通り 通常療法群に比べて HbA1cが長期にわたって下げられることが確認されました.

[] 『きめ細かい指導』=この指導の内容は次の記事に書きます.

そして,この研究の目的である 『強化療法による合併症の 発生/進行 防止効果』も確認されました.例として一次予防の結果を示すと以下の通りです.

強化療法を受けた患者は,圧倒的に 網膜症の発症が少なかったのです.非常に劇的な結果であり,それまであいまいだった 血糖コントロールと合併症リスクとの関係が明確になりました.
もちろん この結果は世界の糖尿病治療に大きな影響を与えました.

[27]に続く

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