前回の記事は,メトホルミンを服用している糖尿病患者が,PET/CTで癌検査を受けると,癌ではないのに腸に沿って造影剤の18F-FDGが密集していることが見出されたという内容でした.
しかし 糖尿病患者であっても,メトホルミンをのんでいない人にはこのような現象はみられませんでした.
造影剤はなぜ腸に集まったのか?
造影剤である 18F-FDG(左)は,分子構造がブドウ糖(右)とそっくりなので,癌細胞はブドウ糖と間違って取り込みます.
癌細胞がどこにあるのかわからなくても,造影剤を静脈から注射して血管を通じて全身にいきわたらせれば,癌のあるところで捕まるはずです.
ところが,PETでは(そこに癌はないのに)腸管にビッシリと集まっていることが見出されました. この現象を報告した文献によると
メトホルミンで治療された患者における(18F-FDGの)腸管取り込みパターンは,典型的には腸に沿って(特に 結腸において) 強く拡散しかつ連続的であり,消化管壁と内腔の両方に分布していた.
造影剤が(糖負荷試験のサイダーのように)口から飲み込まれたのであれば,時間が経てば腸にまで下りてくることはありえるでしょう.しかし造影剤は静脈に注射され 血管を通じて 全身に回ったのですから,この現象は,(癌細胞が貪欲にブドウ糖を取り込むのと同じように)『造影剤が腸に来た時に強く捕まえられてしまった』としか考えられません. そしてメトホルミンを服用している患者だけにこの現象が起こり,服用していない人には(あるいは服用していてもメトホルミン服用を2日以上中止すれば),この現象はみられなかったのですから,
メトホルミンが 腸に沿って存在しており,血管の中のブドウ糖を捕まえて離さなかった
としか考えられません.
実際に腸の表面を調べてみた
こうなれば,『現場』に行って何が起こっているか調べるしかありません.
糖尿病患者にメトホルミンを服用してもらい,内視鏡で腸の表面の細胞をごく少量(~25mg)採取して調べたところ,
- 腸の表面細胞からメトホルミンが検出された
- しかもその濃度は血液中よりも約30〜300倍と非常に高かった
というものでした.
こんなところで メトホルミンは,いったい何をしていたのでしょうか?なぜこんなに濃度が高いのでしょうか? 謎は深まるばかりです.
[3]に続く
コメント
ところで、頭部と膀胱が黒く映っているのも造影剤の影響なのでしょうか。
記事の趣旨とは異なりますが、もしそうだとしたら、こっちにも興味が湧いてきます。
>頭部と膀胱が黒く映っているのも造影剤の影響
はい,そうです. ただ脳と膀胱では理由が違います.
脳は,正常でもブドウ糖を多く消費するので,当然糖取り込みが盛んで,18F-FDGも多く取り込まれます.
一方膀胱は,糖取り込みが盛んなのではなく,静注された18F-FDGが腎臓から尿に排泄されて貯まっているからです.検査時間の終盤では,かなり膀胱が黒くかつ大きく映ります.
以上の理由から,PET単独では脳腫瘍・膀胱がんの検出は困難で,通常CTも同時測定し,PETとCTの合成画像から判定されます.
詳しくは下記をご覧ください.
『PET検査の弱点について 』
https://www.pet-net.jp/pet_html/treat/jakuten.html