筋肉量と糖尿病[1]~日本病態栄養学会報告より

先月 1/24-26に京都で開催された第23回日本病態栄養学会 学術集会での報告,及び それに関する医学文献の紹介です.

テレビの健康番組などでは,「糖尿病はインスリンの分泌不足又はインスリン抵抗性により,血糖値が上昇する病気です」と簡単に片づけられていますが,インスリンとは関係なく血糖値を下げてくれるもの,それが筋肉です.

(C) とだ さん

筋肉の種類

スポーツ医学はまったく無知ですが,人体の筋肉の特徴をまとめると下記のようです.

この内,骨格筋は体重の40%ほどを占めており,なかんずく速筋は,主として解糖系,すなわちグルコースの無酸素代謝をエネルギー源とすること,および 収縮運動を繰り返すだけでインスリンの助けを借りずに血中ブドウ糖を取り込める(*)ことから,膵臓や薬よりも血糖値を直接下げる効果が大きい組織です.

(*) Studies of tissue permeability X. Changes in permeability to 3-methylglucose associated with contraction of isolated frog muscle

筋肉運動と糖尿病

したがって,同じような身長・体重であっても,筋肉の多い人の方が,また 同じ筋肉量であっても,その筋肉を動かす方が(=運動する方が)それだけ多くの血糖を『吸い取れる』ことになるので,血糖値は下がり,かつ長期的には糖尿病になりにくい又は進行しにくいことになります.

実際,下記は西村典彦様が自らスキーをしながら測定した実例の一部ですが,しらねの某のチンタラスキーと違って激しく攻めるスキーらしく,スキーをしていた期間(1月11-13日)は,普段の何倍も糖質を摂取しているにもかかわらず,耐糖能(=ここでは 血糖上昇値/摂取糖質量)は普段と変わらなかったようです.

(提供) 西村典彦 様

筋肉量と糖尿病

また筋肉量と糖尿病との関係については,

Low muscle mass and risk of type 2 diabetes in middle-aged and older adults

アジア人がそれほど肥満でもないのに,糖尿病リスクが高いのは,体重に占める筋肉の比率が小さいからだとされています.

つまり,筋肉比率が高く,しかも 常に筋肉を作動させる(=運動する)ことが 糖尿病のリスク低下・進行防止に有用であり,しかも これはインスリンの作用とは独立した効果なので,インスリン分泌・インスリン抵抗の影響をあまり受けないことになります.

筋肉量と糖尿病[2]に続く

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    情報を追加しますと、掲載のグラフとは別の日ですが、スキーの前後で体重が1.4kg増えました。ただし、筋肉量は1.6kg増えています。当然、体脂肪率は落ちています。

    3日間程度のスキーで筋肉が1.6kgもバルクアップするとは考えにくいので、これは、筋グリコーゲンの増加ではないかと想像できます。
    運動しているにもかかわらず、摂取カロリーは普段と変わっていませんから、体重が増加する理由はほかには思いつきませんし、増加した1.6kgの内訳が400gの糖(体に蓄えられるMAX)とそれに結合する1200gの水分と考えると計算上も矛盾しません。

    普段は、スーパー糖質制限なので脂質代謝です。蓄えられている糖はかなり少ないはずです。そこへ、スキーと言う無酸素に近い運動(200mダッシュと同程度だそうです)を行う事によって糖が枯渇、糖新生も間に合わない状態で(夕食前血糖値68mg/dL)、大量の炭水化物摂取で一気にローディングされたと考えられます。

    筋グリコーゲンの枯渇とGLUT4の活性が炭水化物を多量にとっても血糖値が上がりにくくなる運動の効果だと思います。

    • しらねのぞるば より:

      激しい運動直後の体重増加は,筋肉の一時的炎症(腫脹=腫れ)に伴う,筋肉重量増加も大きいと思います.
      私も 芝生の雑草取りで 立ったりしゃがんだり,つまり ほとんどスクワットに近い動作を半日やっていたら,翌朝 体重が2kg近く増えていてびっくりしました.

      筋力トレーニング条件の違いが運動直後に生じる筋腫脹に及ぼす影響
      https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2016/0/2016_0418/_article/-char/ja/