プラクティス 2019年 11・12月号
糖尿病の専門医学雑誌です(なお,2020年から誌名が『糖尿病プラクティス』となります).
この最新号の特集は
『糖尿病患者への個別化食事療法の実現に向けて』
となっており,序文+6本の記事が掲載されています. 以下内容をかいつまんで紹介します.
序文 [慈恵医大 宇都宮一典/徳島大学 松久宗英]
本年9月に日本糖尿病学会が公開した『糖尿病診療ガイドライン2019』にて示された;
2型糖尿病の食事療法の目的は,全身における良好な代謝状態を維持することによって,併発症を予防し,かつ進行を抑制することにある. そのために,体重に見合う総エネルギー摂取量を設定するが,目標とする体重は患者の年齢,病態等によって異なることを考慮し,個別化を図ることが必要である.
というステートメントにしたがって,では どのように『個別化』を行うのか,その指針を得るのが,本特集の目的であると述べています.
OverView – 糖尿病の食事療法を巡る課題 [慈恵医大 宇都宮一典]
特集 序文の内容は ほぼこの記事に書いた通りです.
BMI=22を標準体重とし,3段階の労作度に応じて,年齢や病態がどうであれ,機械的・一律に摂取カロリーを設定してきた従来のやり方ではなく,今後は患者一人一人に応じて異なる設定とすべきだと述べています.
また特に高齢者では,【炭水化物の摂取比率が増すほど,総エネルギー摂取量ならびに蛋白質摂取比率が低下する傾向がある】ことから,フレイル予防のために蛋白質の摂取が重要(ただし腎機能に留意)としています.
2.リアルワールドのエネルギー必要量 [慶應大学 勝川史憲]
これもほぼ,本ブログで既に紹介 した通りで,5月の学会での勝川先生の講演の通りです. わざわざ『リアルワールドの』という件名にしたのは,従来のカロリー設定は,実測に基づかない単なる推定にしかすぎなかったことを強調しているのでしょう.
3.食品交換表のこれまでと現状と今後 [順天堂大学 綿田裕孝]
やはり,仙台での学会講演を踏襲した記事です.ただし,学会では(おそらく時間の関係で)あまりふれられなかった,食品交換表が登場以来の変遷などにも詳しく触れています.興味深いのは,食品交換表の初版(1965年)の序文をとりあげて;
委員会ではこの糖尿病食品交換表を次の方針で作りました.
初版「食品交換表」 序文
(1)簡単で使いやすい
(2)いろいろの食習慣・環境の人が使える
(3)外食する時にも役立つ
(4)正しい食事の原則を理解するのに役立つ
すなわち,(初版の)食品交換表は当時の日本人の食習慣に鑑み,患者の自由度を増すために工夫された書であったと思われる
— 綿田 先生
と評価しています. そして これに続けて;
第2版では,まず,三大栄養素において必要最低限な量を提示するが,その比率に関してはかなり高い自由度を許容している. この考え方は1992年まで発行された第4版まで続くことになる
— 綿田 先生
と振り返っています.つまり 第4版までは,食品交換表は三大栄養素の【最低量】を示すものであり.現在のように【比率】を固定するという考えはなかったのです.それが 第5~7版となるにつれ,まるで法律のように総カロリー設定まで一律に規定するようになり,ガチガチになっていった(とまでは書いていませんが)わけです.
記事の最後で綿田先生はこう述べています.
糖質制限食も患者の嗜好に合わせて選択されるべき治療法と考えられる
— 綿田 先生
この特集のすべての記事中,糖質制限食も食事療法であるべきと明確に述べているのはこの箇所だけです.綿田先生は,現在 日本糖尿病学会理事であり,「食品交換表」編集委員会 委員長でもあります. この記事は委員長として,今後 食品交換表を,この記事に書いた通りの認識をベースにして改訂していくという宣言でもあるのでしょう.
[2]に続く
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