医師との対話とは?[お問い合わせについて]

『医師との対話とは?』のシリーズ記事について  多くの方からご意見・ご質問をいただきました.

(C) ぴんぽん さん

Q: 医師に相談するには 医学論文を読んでおかなければいけないのか?

もちろん,そんなことはありません.私がああいう手段を使ったのは,『素人は医学論文など読んでいるどころか,存在すら知らないだろう』という医者の常識を逆手にとって,「おやっ?」と思わせる,そして注目させるためにやっただけです.

こう書きましたように;

伝わる内容 = わかりやすさ係数(f1) × 相手の興味係数(f2) × 伝えたい内容(W)

話してみないと内容はわかりません. しかし,その前に 医師に そもそも話を聞く気になってもらわねばなりません.そこをどうするか,という問題です. 突然話を切り出しても相手は面食らうかもしれませんから,最初は予告編だけでもいいかと思います.「先生にご相談したいことがあるので,今 いろいろと考えをまとめております.次回の時にでも」とか.

Q: 新聞やテレビで聞いたことが不安になったので,詳しく尋ねたいのだが

一般論としては構わないでしょう.医師もそういう問い合わせには慣れているでしょう.
ただ注意しなければならないのは,テレビにせよ新聞にせよ,いくら権威ある大学病院の教授といえども,放送時間・紙面の制約から,かなり単純化した解説しかできません.

糖尿病の血糖値の変動は,インスリンで決まります

これは正しいのですが,このブログでも再三とりあげたように,グルカゴンやいわゆる『脳内ホルモン』,更には脱水症状・ストレスなどの有無にも血糖値は影響されます.ただそれらを詳しく解説していたら,時間も足りないし,『視聴者は何がポイントなのか混乱してしまう』という配慮から,「お茶の間のおじいちゃんおばあちゃんにもわかるように」と単純化して話さざるを得ないのです.ですから メディア情報で疑問に感じたことがあれば,咀嚼せずにそのままをぶつけるのではなく,

  • メディアで聞いた情報はこれこれ
  • それに対して,自分はこう理解した
  • するとこういう疑問がわいた

などと,情報と疑問とを区別・整理して,尋ねるのがいいと思います. つまり漠然と不安や疑問をかたるのではなくて,質問のポイントを絞るのです.そうした方が,医師の側でも『自分でも考えているのだな』と理解して,解説しやすくなると思います.また 単に用語がわからなかっただけであれば,やはりネットの時代なのですから,できる限りは自分で調べるのが礼儀かと思います.調べた結果がまちがえていても構わないと思います. 「自分でも調べたのだが」これが大事なのです.

Q: 検査結果はもらっていて,説明も受けたのだが,どうもピンとこない

検査結果は,特に糖尿病の検査結果は,血糖値やHbA1cのようにおおむね「数字」ですね.で,その数値が上がったから悪化,下がったから改善,ほとんどはそこまでの説明だと思います.

しかし それを数字の羅列として眺めるのではなく,ぜひ【グラフ】にすることをお勧めします.血糖値・HbA1cだけでなく,体重,中性脂肪・コレステロール・肝機能関係,とにかく数値のデータはすべてグラフにしてみるのです.グラフにすることにより,データは数値ではなく,形のある【絵】になります.
どれとどれが形が似ているのか,あるいは正反対の形なのか,その傾きが変わったり平坦になった頃には自分の身の回りに何があったのか,思い当たることがあれば,注釈を入れたりします. そこで浮かんだ感想,『ひょっとしたらこういうことがグラフの動きに関係するのだろうか?』それこそがまさに『医師に尋ねてみるべき疑問』だと思います.医師の手元には検査数値と処方した薬の変遷という対応関係しかないのです. 数値の変化と,患者自身でしかわからない生活スタイルとの対応関係,それこそが「医師が聞きたい情報」なのですから.

Q: 週刊誌にかなり心配になることが書いてあったので,聞いてみたいのだが

個人的考えですがそれは最悪だと思います. 学会会場のロビーなどで,医師どうしの『愚痴』に耳を澄ましていると,医者が一番 アタマにくるのが『のんではいけない XXXクスリ!!』など,嘘ではないものの一部だけを取り出して,多くの人の不安を煽る記事です.週刊誌は 人々を不安にさせて販売部数が伸びればそれでいいのでしょうが,医師からするともっとも腹がたつシロモノです.

仮に週刊誌の記事についての質問にまともに対応しようとすれば,「一般に薬の効果試験はこのように行われて,副作用などの評価はこうやって,あそうそう,有意差というのは統計用語で...」などと膨大な説明が必要になります. 「あの週刊誌のクソ記事のために なんでこんなに苦労しなきゃいけないのだ」と怒り心頭でしょう. なので週刊誌のコピーなど持参して見せようものなら,もうそれだけでソッポを向かれる可能性大です.

Q: 誰にでもできる方法はないのか?

ありがとうございます.『医師との対話とは?』シリーズに先立って, 『事実 考え 感情』のシリーズ記事;

をまず作成したのは,実はそのご質問を待っていたからです.

医師はたしかに患者と会話する職業ですが,決して心理学の心得がある人ばかりではありません. 会話から相手の考えを読み取るのが苦手な人もいます.患者の顔色から『考え』を察したり,「言葉ではこう言っているが,実際はこうなんだろう」と推測しても当たるとは限りません. そもそも診察時間の制約から,そんなことを考える余裕すらないのです.

ですから,この『事実 考え 感情』シリーズ記事(これは「患者から事実をうまく聞き出せ」という医師向けの話なのですが)の最後に書いたように, 患者である我々が,医師の手間を省いてあげると感謝されます. 自分自身で「これは単なる自分の考え(建前 又は 思い込み)」「これは 自分の感情(希望・願望)」「これは間違いなく事実」と冷静に切り分けてみて,その事実だけを箇条書きに書き出して,その事実に対する 疑問や質問を対比して整理したものを医師に見せるというのがベストだと思います.そこまで書いてあれば,医師は その冷静な分析に対応して答えやすくなると思います.

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    私の医師との対話は、以下のように始まりました。まだまだ、足りませんが。

    ①糖質制限を推奨していない主治医に「いきなり」主食は全く食べていませんと宣言して、PFC比率を計算したグラフを見せました(笑)
    これは、ある意味賭けですが、いろんな意味で医師、周りの看護師の興味を引きました。
    この時は、「高たんぱく、高脂肪で腎臓に負担がかかるから血糖値が多少上がってもご飯を食べないとだめだ」と言われましたが、やんわり交わして無視しました。看護師は決して口にはしませんが糖質制限に興味はありそうな雰囲気でした。
    この時は「言う事を聞かないのなら来なくてよい」と追い返されなかっただけよかったです(笑)

    ②次に、リブレを使っていると言って時々データを持参しています。
    このクリニックではまだ、リブレを導入しておらず、検討中だったようでいろいろと尋ねられました。
    帰りに会計でも「リブレ使ってるんですか」と尋ねられる始末で、コミュニケーションアイテムとしては抜群でした。

    ③さらに、数か月してからSGLT2阻害薬を処方してほしいと新しい薬剤を指定してリブレの計測も併せて結果を報告しました。
    「SGLT2阻害薬」と言った瞬間に横にいた看護師と顔を見合わせて意味深な笑みを浮かべていました(あれは何だったのかな。。。)
    これも何らかの興味を引いたのでしょう。この薬剤もこのクリニックでは処方していなかったようです。

    自分も興味がありそうな新しい事は、医師も興味があるだろうと思います。
    そして、大事なのは以上の事が結果に結びついていることを示すことです。
    失敗すれば「だから素人は。。。」となりかねません。
    結果が伴えば、もっと興味を引きますし、大勢の患者の中のひとりではなく、「○○さん」と認識してもらえ、そのクリニックでは少し特別な位置づけになったように思います。

    しかし、2年も経つとだんだんと新たなイベントが無く、会話がマンネリ化してきているので、次の段階としてもっと突っ込んだ議論に持って行けるかを探っています。

    • しらねのぞるば より:

      > 主治医に「いきなり」主食は全く食べていませんと宣言

      豪快ですね.主治医の先生も そこまで正面突撃されると,さすがに困惑したのでしょうか.
      私はそんな根性はないので,反発されないようにジワリジワリと匍匐前進しましたが.

      >クリニックではまだ、リブレを導入しておらず、検討中だったようでいろいろと尋ねられました。
      この話はよく聞きます. 結局 医師の方でも,「この患者のデータは自分の役に立ちそうだ」と思えば,向こうの方から興味を示すのですよね.