糖尿病が…. 治った! でも尿糖は?

肝機能指標についてのシリーズで,『基準値は正常値とは限らないから,基準値スレスレだからといって安心はできない』と書きましたが,同じことは 糖尿病の指標についてもいえると思います.

糖負荷試験は判定基準にすぎません

保険治療の対象となる糖尿病かどうかの判定検査として,糖負荷試験が行われることがあります.
診療費の全額を払わなくていい健康保険を適用する以上,『私は糖尿病だと思うから薬を出してほしい』などという自己判定ではなく,客観的な基準で保険適用の可否を決定しないと不公平になるからです.もちろん 通常は糖尿病かどうかは空腹時血糖値やHbA1c値で判定するのですが,それだけでは決まらない場合にこの糖負荷試験が行われます.

糖負荷試験での判定基準は下記の通りです.この基準に満たないのに,糖尿病治療の健康保険を適用申請すると,その医者は厚労省の医療監査で,不正請求だとして徹底的にいじめられます.

ここで 糖負荷試験の2時間値が200を越えていれば,立派な糖尿病ということで,健康保険対象の治療となります.

糖負荷試験の最中ずっと血糖値は高かったものの,たまたま2時間値が200未満であれば,病院は『あなたは境界型ですが,糖尿病ではありません』と告げてくれるでしょう.ですが『やったー! すれすれだがセーフだ!!』と喜んでもいいものでしょうか?

健康保険の適用可否とは別に

病院は,『健康保険の対象外だ』と言っただけなのです.それは『医学的にみて あなたは糖尿病ではありません』という意味ではないのです. 健康保険制度のルール上,保険治療はできませんという意味にすぎません.

糖負荷試験で『正常人』とされる典型的なグラフは下の通りです.

縦軸は,75gのブドウ糖を飲んだ後の血糖値の上昇分(飲む前に比べて上昇した値),横軸は時間です.血糖値はピークでも70mg/dlくらいの上昇,つまり空腹時が100mg/dlであったとすれば 170mg/dlのピーク値であり,2時間後は120mg/dl(空腹時にくらべ20程度の上昇)なので,上記の診断基準から,この人は『正常』と判定されます.

ここで 緑点線は『尿糖閾値(いきち)』で,多くの人は血糖値がこれより上昇すると尿にも糖があふれ出てきます.個人差はありますが,おおむね血糖値が170mg/dlを越えると尿糖が出てきます.

ところが糖尿病では,この尿糖閾値が正常人よりもかなり高くなってしまう,つまり血糖値が170mg/dlより高くなっているのに尿に糖が出てこない,したがって 体内の血糖値が危険なほど上昇してしまうケースがあります.この図の例では;

血糖値が240mg(=ブドウ糖を飲む前より140mg/dl上昇)を越えて,やっと尿糖が出はじめています. そのため240を超えてからの血糖値上昇は ほんの少し緩和されています. しかし,血糖値が240mg/dlを下回ると,再び尿糖はでなくなっています.2時間血糖値が200を越えていれば,もちろん保険適用の糖尿病です.

ところで,この人が食事節制なり運動にいそしんだ後 再び糖負荷試験を受けたら,こうなりました.

尿糖閾値が正常人並みに低下したため,170mg/dlを越えるとそれ以上はあふれて尿糖に出ていくので,血糖値測定結果としてはどの時間を見ても200mg/dl未満となっています. 保険診療のルール上は,この人は『境界型』であり,『糖尿病型』ではありません.当然保険適用外となり,『あなたは糖尿病ではありません.でも注意してください』と言われるでしょう.

しかし,これで喜んでいいのでしょうか?これで『治った』のでしょうか? 尿糖へのあふれ具合からみて,この人の耐糖能,つまり血液中のブドウ糖を体内で吸い込む能力は何も変わっていないのです.もしも尿糖閾値が従前通りなら,点線のように血糖値が上昇していたでしょう.

もう治ったと思っているな

保険適用ルール上は 糖尿病と診断できない
しかし
病理上は明らかに糖尿病である

これは十分ありえることです.

本当に膵臓が丈夫な人というのは,大福を5個食べても 血糖値は上がらないし尿糖も出ないのです. それが【医学的にみても糖尿病ではない】ということです.

「もう勝ったと思っているな. それでは教育してやろう」
小林源文 「黒騎士物語」
(C)ゲンブンマガジン

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    保険適用のための基準。まさにこれが私がOGTTを受けた理由です。

    確定診断がないまま、自主的に始めた糖質制限も半年が過ぎたころにもう少し血糖値を安定させたい、でも保険適用で薬を処方してもらうには確定診断が必要だったのです。
    薬がいらないとしてもリブレで血糖値を確認しておくだけでは、糖質制限と言う偏った食事の影響も不安があり、やはりその他の項目も値を見ておきたかったし、そのためにも保険適用してもらう必要があったのです。

    結果、2時間血糖値は259mg/dLで、晴れて2型糖尿病と確定診断され、書類上、正真正銘の糖尿病患者になれたわけです。
    しかし、保険適用でSGLT2阻害薬は処方されましたが、インスリン治療が不要な私は、SMBGやリブレは依然として自費なのです。年間20万以上の出費は痛いです。
    予防には予算を割かない政府には何とかしてほしいですね。これで将来、透析患者(年間500万円必要)が激減するのですから。

    • しらねのぞるば より:

      > 予防には予算を割かない政府

      いっそ,日本中の全世帯に 無料でリブレとセンサーを配布したらどうでしょう.
      たしかに初年度こそ 金がかかりますが(多分 5000億円ほど),血糖値を自分で測ってビックリした人が 医者に駆け込んでも長蛇の行列で,「あなたの診察順番は,再来年の8月頃です」と言われて,やむをえず自分で何とかしようとするでしょう. 結果として,少なくとも 糖尿病にかかる医療費は激減するはずです.

  2. とむ^^2型糖尿病 より:

    初めまして しらねのぞるばさん。

    いつもブログ楽しみに拝見してます。
    頭の悪い私には 少し難しい文章もありますが
    すご~~く勉強になります。
    私は2型糖尿病になって1年半になります、糖質制限は始めて1年になります。
    薬は今年の春ぐらいから服用していません。
    HbA1cも6.0から5,8を行ったり来たりしています。
    しかし最近 起床時の血糖値が高く135~165もある時が
    そんな時はサラダだけ食べます。どうして良いか思い悩んでいます。
    私の担当医は何を聞いても『あなたは大丈夫だから』と話を終わらせてしまいます。
    こんな質問されても困りますよね起床時の血糖値下げる方法知りませんか?
    あったら 教えてください(__)

    • しらねのぞるば より:

      朝から血糖値が高いと うっとうしくなりますね.

      図と表を用いたほうがわかりやすいので,明日の記事でお答えします,

  3. とむ^^2型糖尿病 より:

    有難うございます。

    忙しい中申し訳ありませんm(_ _”m)

  4. 佐々木カルフ より:

    尿糖試験紙は私も以前購入しまして、実際に糖質摂って測ってみたことが何度かあります。

    全く仰る通りの感想で、血糖値が200を超えていなくても、尿糖が出ている時点でそれは体内で処理しきれていない結果なんだな、と痛感しました。

    それ以来、食後の血糖値はあまり測らなくなりましたが(笑)

    どれだけ糖質摂ったかは自分でわかるので、そこそこ食べた後でたとえ測定器が180mg/dLと表示されても「いや、そんなことないやろ」と思うようになった次第です。
    ようは「そんなに食べるなよ」と自分で抑制する以外にない、と。;^_^A

    リブレのセンサーの保険適用条件は本当に撤廃してほしいですね・・・でも、そうなるとアボット社独占市場になってるので、それは無理かなぁ・・・

    • しらねのぞるば より:

      > アボット社独占市場になってる
      米国では Dexcom社の方が有名で,CGMも多機能の製品を沢山販売しています. 日本でも普及しだしたので,少なくとも選択肢は広がりそうです.

      • 佐々木カルフ より:

        なるほど・・・知らぬが仏とはこのことですかね;^_^A

        ちゃちゃっとebayで見てみたのですが、レシーバーが1万円ほど、
        センサーは1個6000円ほどでした。

        保険適用を考えてもリブレとあまり変わらないかもしれませんが、
        保険適用範囲は結局同じなんでしょうかね・・・

        せめて、常時血糖値や空腹時血糖値の値だけで判断してもらえると
        助かるんですけどねぇ。(笑)

        • しらねのぞるば より:

          糖尿病大国 米国では,SMBGは普通にコンビニで売っていますし,価格は日本の半分以下です.
          生命保険に加入すれば,保険会社から無料で SMBGを送ってきます.

          日本の医療界は,糖尿病患者が減ってもらっては困るのでしょう.