糖尿病医療学ノススメ
少し古い本ですが,現在 奈良県立医科大学の石井 均(*)教授が 『糖尿病 医療学』という概念を提唱して まとめた書物です.
(*) 一文字違いで 石● 均 という別の先生もおられますが,そちらと間違えないように.
副題に「こころと行動のガイドブック」とありますが,この書物で述べている「こころ」とは「悩み」とか「不安」だけを指しているのではなく,『患者の考え・意思』という意味も含みます.
患者を一方的に『教育』し,医師の『正しい』指示に有無を言わせず従わせる,もちろん それでうまくいくケースもあるでしょうし,それを望む患者も多いでしょう.しかし,その上下関係の構図で結果が思わしくなかったら さてどうするのか. この本は,ここからスタートしています. やや高価な本ですし,出版年も古いので,書店で見かけることはないでしょうが,大きな公立図書館や大学図書館には必ずあるでしょうから,一読をお勧めします.
患者には正しく指示しておけば それでいい?
この本に どうしても食事療法がうまくいかない患者に,栄養指導を行う会話が例示されています.
患者:どうしても,ロールケーキを5cm食べてしまいます.
栄養士:5cmは多いです.半分にしましょう.
患者:それでは欲求不満になります.
栄養士:カロリー量としても栄養的にも,よくありません.
患者:それを我慢するとストレスです.
栄養士:糖尿病の食事を勉強しましたか? なぜどのように治療するのかわかっていますか?
会話はここまでです. こう言われれば 患者は黙るしかありません.日本の病院では,どこでも普通に見かける光景です. 今 この瞬間にも こういう『正しい指示』が どこかで行われているでしょう.しかし,糖尿病医療学の観点からは,これは 最悪だと指摘しています. 『患者には正しいことだけを指摘しておけば それでいい』という考えでは,何も結果に結びつかないからです.『正しい指示を守らない患者が悪い』でおしまいです.
ではどうすべきなのか.答えは この書物で見つけてください.
一言でいえば,行動心理学に基づいて ステップを踏んで患者の意思をくみ取り,命令・押し付けではなく,本人の思考・決断の結果として 望ましい方向に進む,これがもっともいい結果になるのだという趣旨の本です.行動心理学の用語が これでもかとあふれるほど使われていますが,本質的には 子供の頃に読み聞かされた『北風と太陽』の童話と同じです.
[4]に続く
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