【補足】信ずる者はすくわれるか

前回の記事 について,問い合わせフォーム経由で質問をいただきました.

「糖尿病の人にとっては,白米でも玄米でも,精製小麦パスタでも全粒粉パスタでも,糖質量が同じならまったく同じように血糖値が上がり」 とありますが,具体的にどういう数字だったのでしょうか?

この報告は福岡市の丸岡内科小児科クリニックと九州大学医学部との共同研究で,糖尿病学会で発表されたものです.

教科書に書いてあるGI値は,糖尿病患者には適用できない
第55回糖尿病学会 3-P-140
第56回糖尿病学会 2-19-42
第57回糖尿病学会 2-11-6

発表では,糖尿病患者16名を対象としています.HbA1cは 7~10%,BMIは 18.5~28と,糖尿病としては軽~中程度であり,極端な肥満者はいません.この方々に糖質 50gに相当する各種食品を食べてもらい,その食後血糖値の上昇分から,各人ごとの『真のグリセミックインデックス(GI)』を算出した結果の例です.

実測データです

表中,
『実測 GI』の欄は,糖尿病の人が食べた場合の 実測 GI(平均値±SE),
『教科書 GI』の欄は,栄養学の教科書などに書かれている GI値です.

糖質50gの食品を糖尿病の人が食べてみたら….

食品名実測 GI教科書 GI
精白米110±1883
玄米102±1755
うどん95±1680
日本そば99±1159
中華麺89±1461
普通のパスタ102±1664
全粒粉パスタ92±950~60
りんご50±834
バナナ70±1754
いちご74±1128
温州みかん58±832
ブドウ(巨峰)76±950
48±1131
西瓜50±960~70
83±937~45

全然 違うじゃないか!!

私もこの発表を聞いた時,そう思いました. そうなのです. 糖尿病の人にとっては,ブドウ糖だろうが玄米だろうが,糖質50gなら どちらもきっちり同じように血糖値が上がるのです.

しかし考えてみれば,もともとGI値というのは,健康な成人のデータから計算されたものなのですから;

Glycemic index of foods: a physiological basis for carbohydrate exchange
The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 34, Issue 3, March 1981, Pages 362–366

糖尿病で耐糖能・インスリン分泌能が低下している人と,耐糖能正常な人とで 同じ結果になるわけがありません.
にもかかわらず,「糖尿病にはGIの低いものを食べましょう 」 というのは,善意なのか悪意なのか,理解に苦しむところです. 少なくとも この研究を行った 丸岡内科や九大の先生のように,きちんとデータをとってから,推奨/非推奨を決めるべきではないでしょうか?

ですので,メディアの情報に踊らされていると,足元をすくわれますよ というタイトルにしたわけです.

(C) まいこ さん

ご質問 いただいた方(匿名をご希望ですので),ありがとうございました.

コメント

  1. highbloodglucose より:

    わたしも前の記事を読んで、具体的な数値が気になっていました。
    とても興味深いです。
    健常人でのブドウ糖50gの上昇面積を100とした場合の比率を元にしているから、
    糖尿病患者では精白米が100以上の値となってるんですよね?
    教科書のGIと比べると、玄米と日本そばが思ったより血糖値を上げるのだなという印象を受けます。
    また、パスタに関しては、前の記事に紹介されていた論文では、
    糖尿病患者がwhite spaghettiを食べても血糖値が上がりにくかったようですが、
    ちょっと違う結果になったようですね。
    果物に関しては、いちごがかなり違う値になっていますね。
    これは、最近の度重なる品種改良で糖度が増した品種で実験したからかしら?
    それに比べて、スイカは逆に低GIだったんですね。
    今年の夏はスイカを食べようと思います(笑)

    • しらねのぞるば より:

      おはようございます.

      >健常人でのブドウ糖50gの上昇面積を100とした場合の比率を元にしているから、
      >糖尿病患者では精白米が100以上の値となってるんですよね?

      いいえ,各個人ごとに自分の50g糖負荷試験のデータを100としています.
      ですから100を越えているのは,体調変動などでしょうね.
      健常人でも 糖負荷試験の結果は 毎回ピタリ同じというわけでもなく,結構変動しますから.

      また「各個人の50g 糖負荷試験のデータを100と」して,各人 個別にGIを算出したのですから,この発表では,『これこそが真のGIである』ことを強調していました.
      なぜなら,教科書のGIでは,ブドウ糖のデータは「成人の平均値」を用いているにすぎないからです.

      >糖尿病患者がwhite spaghettiを食べても血糖値が上がりにくかったようですが、
      >ちょっと違う結果になったようですね。

      これは私もそうなのですが,パスタの場合は血糖値ピークはあまり上がらず,その代わりダラダラと長時間プラトーになるので,どこまで観測するかの問題だと思います. OGTTでは通常120分を越えて測定しませんが,食品による食後血糖値は,必ず120分で収束するとは限りません.
      ですので,

      >スイカは逆に低GIだったんですね。
      西瓜はほとんど水分ですから,糖質50gを摂ろうとすれば,いくら糖度の高いものでも総重量500~600gとなります. なにしろ被験者は入院中の糖尿病患者ですから,かなり持て余して食べきるのに時間がかかったか,又は食べきれなかったのではないかと想像しています.

  2. msxsan より:

    始めまして。コメントありがとうございました。
    頂いたのはこちらの記事です。↓

    https://msxsan.hatenablog.com/entry/2019/10/17/231603?_ga=2.103691712.1178513899.1575808387-299739224.1556801074

    大変遅くなりすみません。今まで気づきませんでした><
    糖質を摂ればGI値に関係なくやはり上がってしまうのですね。具体的な数値に示してあるととても説得力があります。スイカの低GI値(笑)もほとんど水分だからというのも納得です。ここまで詳しく調べられて頭が上がりません。GI値怪しいと首を傾げるだけではダメですね。数か月前GI値が低いからと言って嫌がる夫に玄米食を強要していた自分が情けないです。

    • しらねのぞるば より:

      あ,そうでしたね. 書き込んだコメントが表示されないので,管理サーバーが外部からの入力を遮断しているのかなと思っておりました(私のこのブログも,海外からのコメント記入は 無条件で遮断しますので).

      GIが低いものを選びましょうとは,れっきとした糖尿病学会資料にすら書いてあるので,あてにならないといっても なかなか納得してもらえないことが多いです. しかし,実は 学会の症例報告などでは きちんと取り上げられているのですけどね.