シンポジウムでは『野次』の飛ばし放題
今回の学会でもっとも面白かったのは,講演を聞いている聴衆が『野次を飛ばせる』システムでした.
通常 学会の講演というと,一方的に講演を聞いた後,座長が『会場から質問はありますか? 質問希望者は,マイクスタンドまで来て,所属・氏名を名乗った後に質問願います』とやるわけですが,これでは めったなことは言えるものではありません. 『初歩的な質問だったら恥をかくのでないか』とか,『あんな質問をした奴がけしからん. あいつの教授にねじこんでやる』とかになりかねないです.
ところが,今回は会場内の無線LANを利用して,聴衆が自分のスマホやPCからツイートできるシステムが導入されていました. このツイートは,リアルタイムで 講演中の主スクリーン右端に次々と表示されていきます.こんな感じです.
このツイートに対して,講演者や座長が回答する場面もありました. もちろんツイートですから,所属・氏名も名乗る必要はありません.つまりこの方式なら言いたい放題が可能です.実際に言いたい放題でした.お堅い医師も結構やるもんです.
会場からのツイート 出るわ出るわ
高齢者にBMI=25を推奨し,カロリーもそれに合わせることについて
- 高齢者に2,000kcal以上の食事を食べさせるのは無理だと思う.
- 設定カロリーを増やす分を全部主食に回したら,血糖値が大変なことになりそう.
- 高齢者は今まで通りBMI=22基準で,それより適宜高くてもよいとしてはいけないのですか.
- 今までは,『お歳だから肉は減らしましょうね』と言ってきたのに,どうするの.
- すごく手間がかかりそう. XXX県では,支援が必要な高齢者は多いけど,支援する人手は足りません.
食事療法の新ガイドラインについて
- せめて糖質制限食という食事療法が存在することだけはガイドラインに明記すべき.推奨しろとは言わないが,現に多くの人が実行しているのだから,無視はよくない.
- 数字で一律規定するのをやめるのは賛成. これでやっとADAに追いつくのですね.
- 糖質制限食は避けて通れない. 現に糖質制限食でよくなっている人がいるのだから. 糖質制限食はマスコミが先行している.専門家集団である学会が,結局それを後追いとはみっともない.
学会会員の本音がうかがえました
ツイートは,タイムラインで次々と流れていくので,私の見落としがあったかもしれませんが,現行の食事療法ガイドラインを絶対に守るべきという意見は出ていませんでした. このシンポジウムの参加者(定員1,000名の大ホールは満席.立ち見も多数)の「表立っては言えないけれど,本音はこうなのだ」がよくわかり,大変興味深いものでした.このリアルタイムツイートシステムは,仙台国際センターでしか不可能ということはないでしょうから,来年以降もこの方式をぜひ続けていってもらいたいものです.
【食事療法関係 完】に続く
コメント
気楽にジーパンで参加できる基礎系学会しか知らなかったわたしにとっては、
発表者でもないただの参加者でさえビシっとスーツ着用で、堅苦しい印象があった医学系学会。
それが、まさかニコ動化するとは!(笑)
高齢者に栄養バランスのいい2,000 kcalの食事をさせるのは難しいというのは、私の両親の様子を見ていてもそう感じます。
大好きな菓子パンやら饅頭でカロリーを稼ぐのはできそうですが、良質なタンパク質を摂ってほしくても、なかなか量を食べるのが難しいようです。
両親とも糖尿病が発覚してからはBMIを20前後にまで落としていますし、父親は最近さらに体重が減ってきているようで(しかも、本人はやせる=いいこと、太る=ダメなことと刷り込まれている)、このままではサルコペニア、フレイルコースとなりそうで怖いです。
飲みやすそうなプロテインとか勧めた方がいいのかしら…?と悩むところです。
> 堅苦しい印象があった医学系学会
いえいえ,学会でみかける お医者様は ごく普通のおじさんですよ.それは医学系だけに限りません. 物理系の学会なんて,奇抜な恰好をした教授など珍しくもないです.
>高齢者に栄養バランスのいい2,000 kcalの食事をさせるのは難しい
CKDの食事療法の講演(FS5-4)で, 滋賀医大の荒木先生の話は 納得がいくものでした. そういう言い方はしませんでしたが「80歳 越えたら,10年後・20年後の病気リスクを論じることにどんな意味があるのか.何よりも楽しい毎日を送れるようにすべきだ」 私も80過ぎたら,大福も讃岐うどんも腹いっぱい食べるつもりです.
すごく興味深かったデス
医師の本音が伺えました。ありがとうございます
たぶんそうだろうなとは思ってましたが,医師の多くも 糖質を控えることに反対ではない,これを確認できたのは大きな収穫でした.
いつも貴重な情報ありがとうございます。
年次学術集会の記事は大変参考になりました。
これからも読ませていただきたいと思ってます。
学会というと,たしかに 素人には敷居が高いです. ではありますが,参加登録料だけ払えば,会場に入っても追い出されるわけではありません. 米国の学会は(お祭り好きという米国人の特性もあって),ほとんど フェティバルの雰囲気です. カタい話ばかりではなく,結構 面白い話題もありますので,それも取り上げる予定です.
とても興味深いですね!日本人らしいと言うべきか…匿名だとつい本音が出るんですね。面白いです!いつも貴重なレポートありがとうございます。感謝です!
今回のリアルタイム ツイッターをやろうと言ったのは,今学術集会の山田会長の発案だそうです. 将来の理事長候補だろうなと思います. これまでは 参加者の本音は,学会会場通路での立ち話を聞くぐらいでしたから,大きな進歩です.