食べ順食事法の効果って?[その3]

食べ順を守らなくても結果は同じ

2018年に,食べ順を守っても守らなくても,結果は同じという学会報告がありました.

日本糖尿病学会 第61回年次学術集会 番号 2-P-405
耐糖能が正常の人と境界型糖尿病の人に,それぞれ
(1) 副食(おかず)を先に食べて,主食は最後
(2) 主食,副菜などを同時・交互に食べる(いわゆる『三角食べ』で,学校給食で『正しい食べ方』と教わる方法)
をやってもらって比較したところ,(1)と(2)の食べ方による血糖値変化の差はみられなかった.

これまでの話とはまるで違う結果です.

鍵は食事時間

上記の報告を理解する鍵は,食事にかけた時間です.
三角食べであれ,食べ順指定であれ,それは関係なくて,ただ食事全体に15分かけた場合と30分かけた場合を比較した方が,はっきりと血糖値に差が出たのです. 当然30分かけてゆっくり食べた方が,血糖値の上昇は緩やかで,ピーク値も低かったのです. つまり同じ時間かければ,食べ順はあまり関係ないということです.

そういえば,食べ順食事法の実験を行う時には,主食(又は おかず)を【食べ始める】時間は,実験担当者が厳密に指示できるでしょうが,食べ終える時刻の指定は困難でしょう.実際,「はい,今からご飯を食べてください」は守れますが,「はい,今から ご飯を食べ始めて,10分かけて食べ終えてください. それより早くても遅くてもダメです」と言われると,なかなか難しいからでしょうね.

食事内容と食事時間

早食いの人,遅食いの人,という個性はありますが,食事内容によっても食べきる時間は変わります. それでなくても早食いの人が,大盛りのざる蕎麦をわずか10秒位で食べる人を見たことがありますが(S君,あなたのことです),そんな人でもガリガリとかじらないと喉を通らないような食材なら,さすがに早食いはできないでしょう.

弥生時代と現代の食事

調べてみると,下記の興味ある報告を見つけました.

2016年1月 第19回日本病態栄養学会
パネルディスカッション #4 食べ方と血糖コントロール
4-4 咀嚼について
東京歯科医師会 高野歯科院長
弥生時代の食事を再現して食べてみる実験を行ったところ,1食終えるのに 約4000回の咀嚼が必要だった.同じく第二次大戦前の庶民の典型的な食事では1420回の咀嚼回数となった.ところが現在の食事は600回ほど噛むと,もう食事がなくなっている. 和食がいいとか食の欧米化とか言われるが,それ以前の問題として,現代の食事は柔らかいものばかりで,ほとんど噛む必要がなくなっている. 必然的に食事時間は短くなり,単位時間あたり消化器に送り込まれる糖質は昔の数倍になっており,これも血糖値スパイクの大きな要因だろう.

グラフにするとこうなります.

単位時間あたりの噛む回数は,人により多少の速い遅いはあっても,1桁も違うことはありませんから,現代人は,弥生時代はもちろん,戦前の日本人と比べても,噛む回数は半分くらい,よって食事時間も半分くらいに短くなっていると考えられます.そういえば,子供の頃に食べた魚の干物は,現在スーパーで売られているものとは比較できないくらい固いものでした.当時は遠隔地まで低温を保って流通させることなど不可能でしたから,できるだけ塩をきかせてカラカラに干しあげるしかなかったのでしょう.

食べ順というよりも

ここまでのデータを総括すると,

食後血糖値をコントロールするには,食物がじわじわとゆっくり消化器官に流れ込んでいくような食べ方 and/or 食べ物を選択する

これがもっとも確実な方法ということになりそうです.

コメント

  1. highbloodglucose より:

    食べた物がどれくらいの時間胃に留まり、小腸で吸収されるのかよく分からないのですが、早食いだとそんなに早く一気に消化・吸収されるのでしょうか。
    インスリンが分泌されるまでのタイムラグを考えたとしても、消化・吸収に時間がかかっていれば、その間にインスリン分泌の準備が間に合いそうなのに…と、以前から不思議に思っています。
    よく噛むことで、インスリン分泌量が増えるということでしょうか。
    そうだとすれば、単にダラダラ時間をかけて食べても効果は薄く、しっかり噛むことが重要であるということになりますね。

    わたしはカーボラストを意識して、おかずをよく噛んで食べるように心掛けていますが、主食のもち麦については、もしかしたら噛まずに流し込んだ方が血糖値は上がらないのでは?と思ったりしています。
    よく噛めば麦粒が潰れて消化しやすくなりますし、唾液のアミラーゼでデンプンが分解されますよね。
    お茶漬けや玉子かけごはんで流し込めば麦粒のまま消化器に入ることになるので、消化に時間がかかって血糖値が上がりにくくなるのでは?なんて。

    胃腸への負担が大きそうですけどね。

    • しらねのぞるば より:

      ブドウ糖錠剤に血糖値が反応するのが,ほんの数分なのに対して,普通の食物はそれ以上かかるでしょうね.ただ おっしゃるように唾液中のアミラーゼはけっこう強力で,澱粉成分だけはあたかも流動食のように,割合早く小腸に到達しているのではないかと思います.

      食事時間が一番きいているだろうというのは,極端なはなし,茶碗のご飯粒を 爪楊枝で一粒ずつ上品に1時間くらいかけて食べたら,まったく血糖値は上がらないでしょうね,という意味です.