前回記事で,日本糖尿病学会は 『糖尿病の食事療法は 一律・画一的ではなく,個別化すべきだ』という原則は表明したものの(それ自体は 30年来の方針転換で勇気のいることだったでしょうが),それ以上のこと,つまり 実際の医療現場で『食事療法の個別化』をどう実践していけばいいのか,その具体的なガイダンスを 一切出していないために生じている混乱を紹介しました.
これでは 治療の最前線で医師や管理栄養士は困惑するばかりです.
定点観測
ちょうど1年前,全国から 糖尿病専門医のいる開業医・クリニックを無作為に50箇所選び,そのクリニックのホームページから そこで行われている食事指導・栄養指導の内容を集計してみました.
結果は下の通りで,クリニックで『糖尿病患者に栄養指導を行う』とはあっても,その内容を表示していないクリニックが半分以上でした. そして栄養指導の内容を具体的に書いているクリニックでは『食品交換表に従う』としたところが最大派閥でした.
しかし,今や 日本糖尿病学会が『個別化食事療法』という原則を強く打ち出しているのですから,糖尿病専門医(=ほぼすべて糖尿病学会員でしょう)としては,学会のガイドラインに従う義務まではないとしても,何らかの変化があってしかるべきです.
そこで昨年調べた50のクリニックのホームページを再度調べたところ;
変化なし
図にするまでもありません. まったく昨年と同じでした. 昨年『食品交換表に基づいてバランスのとれた栄養食指導を行う』などと書いていたところはそのままでした.
というより,栄養指導に限らず,ホームページの記載事項をいささかでも変更したクリニックは ほとんどありませんでした.
例外は下記2件のみでした.
- 昨年は クリニック紹介欄にあった『栄養指導』の項目がなくなった
- 昨年とほぼ同文だが,『日本糖尿病学会の[糖尿病診療ガイドラン 2019]に準拠して栄養指導を行う』と追記した
糖尿病専門医がいる 全国の50のクリニックで,[糖尿病診療ガイドラン 2019]に言及したのは,たった1か所だけでした.
それはそうでしょう. これまで30年近くにわたって,『糖尿病の食事療法は 食品交換表以外ありえないのだ』と厳しく患者を指導してきたのですから,今さら前言を翻せないのです.
学会の打ち出した『糖尿病食事療法の個別化』を早速実行に移したクリニックは,少なくとも 定点観測している50のクリニックには ほぼ見当たりませんでした.
学会方針と実際の治療現場との,この大きな乖離は 2022年にどうなるのでしょうか.どうすべきなのでしょうか.
コメント
とにかく糖質を摂取しなければ肝臓の糖新生以上には血糖値は上がらないと言う事実を患者に伝えるべきです。
話はそれからだと思います。
『糖質摂取量と食後血糖値上昇とは直結している』ことを理解させるために,1型糖尿病患者だけでなく2型の患者にもカーボカウントを教育しようと,かつて学会内でも提案されたことがあります.
https://shiranenozorba.com/2020_07_15_why-jds-diet-therapy-missed-science33/
もちろん 至極妥当な提案ですから,当初はおおむね賛成する意見が多数でした.
https://shiranenozorba.com/2020_07_17_why-jds-diet-therapy-missed-science34/
ところが,学会内で食品交換表の編纂を担当していた幹部は,この2型糖尿病患者へのカーボカウント教育に猛烈に反対しました.
https://shiranenozorba.com/2020_07_23_why-jds-diet-therapy-missed-science37/
その理由は, 『カーボカウントを教えると 糖質制限食への誘導に【悪用】されるから』だそうです.
(【悪用】という言葉を用いたのは 私ではなく その学会幹部です)
よって 現在でも 日本糖尿病学会が患者向けに発行している『糖尿病治療のてびき 2020 改訂第58版』
https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524227280/
では,1型糖尿病患者にはカーボカウントを推奨していますが(p.56),2型糖尿病患者の食事療法のページ(p.62~)には 記載していません.
つまり カーボカウントは,あたかも1型糖尿病患者しかやってはいけないかのように記載しています.
この学会の姿勢に 今年いささかでも変化がみられるのかどうかを注目しております.
糖質制限食や2型のカーボカウントを悪行としながら「食事療法の個別化」を進めていくことなど誰が考えても不可能です。
摂取糖質量=血糖値を認めると、殆どの経口血糖降下薬がマッチポンプであることも同時に認めざるを得なくなるので、学会としては個別化のお題目だけを掲げて具体的な推進は避けたいのが本音でしょうね。
しかし結局は患者さん個人のリテラシーによって改善していく病態なので、当ブログの存在意義は本当に大きいと思います。
>学会としては個別化のお題目だけを掲げて
本日 終了しますが,日本病態栄養学会のWEB講演を聞いておりますと,『食品交換表は理想のバランス食』と言い切ってしまったことをどう取り繕うか,ということに汲々としているように感じました.