前回記事では,スポーツジムに行かずとも,また特別な道具を用意しなくても,自宅内[*]でできるレジスタンス運動として「階段昇降運動」を提唱されている名古屋市立大学 高石鉄雄先生の論文を紹介しました.
[*] 平屋の一戸建てを除く
この報告では,境界型ではあるが健常な中年男性8人に,同じ試験食を食べた後,90分目に5~6分ほど,80-100段/分の速度で階段を上ってもらう(下降速度は自由)というものでした. その結果,「全く運動しない」「650mの距離を自由に歩いてもらう」に比較して,有意に 105分,120分の血糖値が低下していました. もちろん個人差はあるでしょうが,効果はみとめられました.
意外にキツい
実は同じ方法で私もやってみました. 結果はこの後の記事で報告しますが,80~100段/分の速度で階段を上るのは「結構 キツい」です.普段の階段の上り下りよりは はるかに速いテンポですし,しかも転落しないように気を配りながらというのは緊張しました.
糖尿病患者を対象とした試験
高石先生の2番目の報文は,この「階段昇降運動」を糖尿病患者を対象として行ったものです.
試験対象・方法
前回の対象者は,平均48歳で境界型とはいえ運動能力は健常人と変わらないでしょう.しかし今回は年齢も高いです. 高血圧の方,インスリン使用の方は除外していますが,全員が何らかの糖尿病薬を服用中です. したがって,階段運動の方法もそれらを考慮して下記のように変更しています.
食後90分の時点で 5~6分の階段運動1回ではなく,それを3分×2回に分けて,60分,120分に行っています. また 今回の比較対象は,「運動なし」群だけです. 前回試験で,「歩行のみ」と「運動なし」には差がなかったからでしょう.
被験者の年齢が高いので,階段の1段あたりの高さも 18→17cmと少し緩やかにしています. 更に階段を下りるときには「ゆっくりと」を守るよう指示しています.どちらも階段から転げ落ちないための配慮です.
試験結果
血糖値の結果です.
150分,180分の血糖値は比較群に比べ有意に低下しました. また統計的有意ではありませんが,90分,120分でも低くなっています.
C-ペプチドの血中濃度は,体内で分泌されたインスリンの量を反映しています.「運動なし」群のC-ペプチドは,60分に比べ有意に増加したのに対して,「階段運動」群は多少増加したものの,有意ではありません.つまり,食後血糖値は低く抑えられたにもかかわらず,インスリン分泌はそれほど増やさずにすんだということです.
最後は遊離脂肪酸の変化です. 食事を摂ったので,当然 空腹時から徐々に低下していきます. 運動あり/なし での有意差はありませんでした.個人的には「運動あり」群で,150分に少し上昇した(有意差なし)のに興味がひかれます.
これでもキツすぎた?
高齢の糖尿病患者であることから,階段を緩くしたり,運動を2回にわけたりと あれこれ配慮したのですが,この試験前後の血中乳酸の変化を見ると;
- 試験前: 16.2±0.9 mg/dl
- 試験後: 37.8±1.8 mg/dl
と,大きく増加しており,これは『ハードな運動』と分類されるレベルです. したがって高齢の方がこの運動を実践する場合には,血糖値降下低下はやや鈍るかもしれませんが,もう少し遅い速度で上ったほうが安全でしょう.
次回は,しらねのぞるば が 実際に この『階段昇降運動』をやってみた結果を報告いたします.
[3]に続く
コメント
自宅にて 筋力維持 大変 興味があります。
残念ながら 自宅に 階段はないのですが、踏み台昇降の台を購入しましたので、趣味の様に取り組んでいます。
食後200mg/dl 高血糖 マークした場合においても 5分程度の踏み台昇降 実施でかなり下がります。
少し戻ったりもありますが 取り組んでいるところです。
非常階段がありますから 使用させて頂こうかしら?人目が。。。
購入された踏み台は,高さ調節できるようになっているのでしょうか? 実は最初は適当な踏み台でやってみたのですが,段が低すぎてあまり運動になりませんでした. 30cmくらいにできるなら結構な負荷かなと思います.