第65回日本糖尿病学会の感想[5] SU剤がやめられない

【この記事は 第65回日本糖尿病学会 年次学術集会に参加したしらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞き間違い/見間違いによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】


低血糖

糖尿病患者にとって,低血糖はおそろしいものです. 特に睡眠中に誰にも気づかれぬまま,朝になって家人が死亡に気づく『Dead-in-bed』だけは 絶対に避けたいものです.

(反応性低血糖を除いて)人体は自然に低血糖に陥ることはありません. 血糖値が下がるとグルカゴンなどが分泌され一定の血糖値を維持するようになっているからです.しかし インスリンなど外部からの薬物によって低血糖に陥ることはあります.

ただし インスリン注射が原因で低血糖になり救急搬送される人の割合は意外に少ないようです. むしろ糖尿病経口薬,特にSU剤によって低血糖を起こす人の方が多いようです.

『低血糖で病院に緊急搬送されるのは』
第60回日本糖尿病学会(2017年) これは2017年の日本糖尿病学会での報告です.低血糖を起こして救急車で病院に担ぎ込まれる人は,毎年相当数にのぼります.上…

特に高齢で,腎機能が低下している場合に いつもと同じ量のSU剤を服用しただけなのに,低血糖を起こすことがあります.

『空腹時のSU剤は危険です』
この記事の続きです. 寝る前よりも翌朝の方が血糖値が高くなる『暁現象』(Dawn Phenomenon)は有名です.しかしあまり目立たないのですが,起床後 何…

ですので,高齢者へのSU剤投与は,年々 避けられるようになってきました.

日本糖尿病学会でも,高齢者へのSU剤投与で重篤な低血糖になった症例が報告されると,『まだ,そんなことをやっている医師がいるのか』などという声が会場から上がります.

高齢者へのSU剤投与を続けてきたが

ところが『高齢者へのSU剤投与は 一切やめたらいい』と そう単純に言い切れないケースもあるのだという報告が,今回の 第65回 日本糖尿病学会で 発表されていました.

P-94-5
コントロール良好な長病歴の高齢2型糖尿病患者では 少量SU剤が中断できない症例がある

長年 糖尿病を投薬治療していて HbA1cも安定しているので,投薬は メトホルミン/DPP-4阻害薬だけにして SU剤を中止しようとしたケースです.

【注】ポスター発表から 数字だけをメモして,私がグラフにしたものですから,細かい数字は一部不正確かもしれません.

58歳から77歳までの(平均年齢 = 71歳)5人の患者の例です. 治療薬は,全員がSU剤のグリメピリド 0.5mgと,シタグリプチン and/or メトホルミンを長年服用してきました.

高齢者にいつまでもSU剤の投与を継続するのは好ましくないだろうということで,前3回までの通院時検査[通院インターバルは患者ごとに異なる]でHbA1cが安定又は低下傾向だったので,SU剤の投薬を中止しました. すると その後通院ごとに みるみるHbA1cが悪化してきたのです.やむなく SU剤を再開したところ,5人ともSU剤を再開後は ほぼ元に戻っています. つまりこの人達がSU剤をやめることは不可能だったのです.

SU剤を服用中は 一定のHbA1cを保てるのですから,膵臓β細胞のインスリン産生能は まだ十分残っていることになります. にもかかわらず SU剤を服用しないとHbA1cが上がってしまうのは インスリン分泌能力の問題ではなく,体が高血糖になったことを感知できなくなっている,即ちセンサーの問題であるということでしょう. 高齢者の糖尿病治療は 一筋縄ではいかないという実例でした.

[続く]

コメント