第64回日本糖尿病学会の感想[18] 『グルカゴンの反乱』のその後-4

急用で実家に帰っていましたので中断していました. その再開です.

前回までのおさらいです

糖尿病患者は,

  • インスリン分泌が遅い(又は少ない)
  • あるいは『インスリン抵抗性』によりインスリンの効き目が悪い
  • それだけでなく,血糖値を上げるグルカゴン分泌まで多い
  • そのため,空腹時及び食後の血糖値が高くなる

これが『グルカゴンの反乱』説でした.

しかし,従来のグルカゴン測定法(=RIA法)では,測定精度がかなり悪く,『グルカゴンでないものまでグルカゴンとして測定してしまう』という問題がありました.したがって,この方法で測定したグルカゴン値を前提にした過去の研究論文は,その内容に信頼性が乏しく,グルカゴンがどれくらい糖尿病の病状に影響しているのかは依然として不明でした.

そこで,群馬大学の北村忠弘教授が サンドイッチELISA法を開発したところ,この測定法はLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー/質量分析併用法=もっとも精密にグルカゴン値を測定できる方法)と高く相関することが明らかになり,ようやく臨床医学試験の使用に耐える精密なグルカゴン測定法が確立しました.

ブドウ糖よりも

そこで,この サンドイッチELISA法を用いて,健常人・糖尿病患者に,ブドウ糖負荷試験とテスト食負荷試験を受けてもらい,血糖値・インスリン・グルカゴンの変化を調べてみました.

その結果,テスト食は糖負荷試験に比べて 糖質が少ないにもかかわらず,したがって血糖値の上がり方も緩やかなのにもかかわらず,インスリンはむしろテスト食負荷試験の方が多かったのです.

注目のグルカゴン値ですが,上の通り 健常人でも糖尿病患者でも糖負荷試験よりもテスト食負荷試験の方が 食後グルカゴン分泌は増えていました.

糖尿病患者では食後のグルカゴン分泌が抑制されない

というのは間違いだったのです.正常な人でもテスト食喫食後はグルカゴンが増えていたのですから.

何が違うのか

しかしながら,健常人のブドウ糖負荷試験を見ると,たしかにインスリン分泌と相反して,グルカゴン分泌は下がっています. ここだけを見れば『グルカゴンは低血糖になると増え,高血糖になると減る. よってグルカゴンはインスリン拮抗ホルモンである』というのは当たっています.

しかし,それならどうして テスト食負荷試験では,健常人でも 食後グルカゴン値が上昇したのでしょうか? なぜブドウ糖だけの糖負荷試験とパターンが変わるのでしょうか?

どうやらブドウ糖とテスト食では 血糖の反応が異なるようです.

この試験では テスト食として 医療用の栄養補給流動食(サンエット-SA:ニュートリー株式会社)を用いています, よく使われる『糖尿病食』では 早食い/遅食い で個人差が出てしまうためです.

濃厚流動食 サンエット-SA
(C) ニュートリー株式会社

医療用なので,この流動食の栄養成分は 極微量成分に至るまで非常に詳細に公表されています(同社HP の『栄養成分表示タブ』).

テスト食には ナイアシンが添加されていますが,1パックあたり 6mg,2パックでも 12mgと微量なので,これがグルカゴンに何らかの影響を与えたとは考えられません.実際血糖値はブドウ糖よりも低かったのですから.

すると 糖負荷試験とテスト食負荷試験の違いは,テスト食だけに含まれていた,脂質・たんぱく質・食物繊維のいずれかが原因ということになります.

[19]に続く

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