【続】肝機能指標と糖尿病[11] 中国人の場合

久山町研究の結果を受けて,各国でも 肝機能指標と糖尿病発症率との関係を調べる研究が多数おこなわれました. 前回までの韓国/南原研究もその一つでした.更に欧米の同様の文献も多数ありますが,ここでは 同じアジアの中国人のデータを紹介します.

ただし,いずれも 久山町研究や南原研究のような『前向き観察研究』(=糖尿病ではない正常な人の肝機能を予め調べておいて,その人達を長期間追跡して,糖尿病発症の有無を調べる方法)ではなくて,どちらも『後ろ向き研究』です.

『後ろ向き研究』とは,糖尿病の人/正常な人のデータを集めてその人達の過去の健康記録をさかのぼり,糖尿病発症にどのパラメータの影響が大きかったかを評価する手法です. 明らかにこの方法には手間がかかりません. 『前向き研究』では多数の人を長期間追跡するので,時間も手間もかかりますが,『後ろ向き研究』では,データの揃っている人を集めるだけで 直ちにデータ分析にとりかかれるからです.
ただし,この『後ろ向き研究』は『前向き研究』に比べて一般に精度は劣るとされています. すべての人の『過去のデータ』が同じ時期に同じ精度で測定されたとは限らないからです.

シンガポールの中国人

(C) BMJ

シンガポールで 同数の正常/糖尿病患者の過去のデータから,糖尿病発症の有無と ALT 及び GGTとの関係を調べています.ALTについては,それぞれ571人,GGTについてはそれぞれ255人のペアを比較したCase–Control studyの結果です.

ALT値によって三分位で比較し,もっとも高いT3群では 優位に発症オッズ比が高くなっていました.

一方 GGTは,同様に三分位で比較していますが,もっとも高いT3群でも もっとも低いT1群との有意差はありませんでした.
なお,この研究で可能な限り 因子調整は行われていますが,総人数が少ないので,性別の階層化はできなかったようです.

中国人

オープンデータベース(DATADRYAD)から中国人 210,051人のデータを収集し,後ろ向き解析を行った結果です.
人数が大きいので 各種の因子調整(年齢,性別,BMI,収縮期血圧,拡張期血圧,総コレステロール,中性脂肪,空腹時血糖値,喫煙,飲酒,家族歴)が適用可能でした.

初期時点での ALT値(横軸)によって,糖尿病発症ハザード比(縦軸)がどれくらい上昇するかがグラフで示されています.

基準値に近い範囲だけを拡大するとこうです.

95%信頼区間の下端が 1.0倍より上にくるのはALTが30弱くらいです.

以上の2つの報告からも,やはり ALTは 20~30あたりに糖尿病発症リスクが高くなる境界があるようです.

[12]に続く

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