【続】[2型糖尿病]は存在しない[8] SIRDは糖尿病ではない?

Ahlqvist博士が提案した 『2型糖尿病には4つのクラスター(=異なる4つの病気)が存在する』という説では,比較的軽度のもの(MARD,MOD)と 短期間に重症化しやすいもの(SIDD,SIRD)とに二分されます.

SIDDについては,最初から高血糖,かつHbA1cが高いので,どんな医者でも顔色を変えて 治療初期から強力な投薬療法を行うでしょう.

しかし,もう一つのSIRDは,初期には血糖値・HbA1cがそれほど悪くないので,そこだけを見ていては 『肥満者にありがちな軽度の糖尿病ですね』と診断されて,穏やかな治療のみで『経過観察』するだけでよいと診断されがちです. Ahlqvist博士も その論文で このように警鐘を鳴らしています.

..but also surprisingly low in SIRD which should benefit most from metformin, demonstrating that traditional classification is unable to tailor treatment to the underlying pathogenic defects.
メトホルミンから最も恩恵を受けるはずのSIRDには,メトホルミンの投与比率が驚くほど低い.このことは従来の糖尿病分類では根本的な病理に対応した治療ができていないことを示している.

Clustering of adult-onset diabetes into novel subgroups guides therapy and improves prediction of outcome

『初期には血糖コントロールが優秀なこと』が災いして,最初から強力にインスリン抵抗性を治療するチャンスを逃しているのです.

Ahlqvist博士は従来の糖尿病分類(下図;左)のように,2型糖尿病を[1型でもない,遺伝性でもない,二次性でもない,どれにも分類不能のもの]ととらえるのではなく,4つの異なる病気だと考えることを提案しました[下図;右].

SAID重度自己免疫性糖尿病(=ほぼ従来の『1型糖尿病』)
SIDD重度インスリン分泌不全糖尿病
SIRD重度インスリン抵抗性糖尿病
MOD軽度肥満性糖尿病
MARD軽度加齢性糖尿病

ただ,その中でSIRDだけは;

  • 初期から強いインスリン抵抗性を示すが,インスリン分泌能も高い
  • したがって 初期には血糖コントロールはむしろ優秀
  • ところが腎症悪化速度は極めて速い
  • 外見的には糖尿病の症状を呈するが,「糖尿病に関連する遺伝子」をまったく持っていない

という.きわだった特徴があり,他の3つ(SIDDMODMARD)とはさらに隔たった まったく別の病気ではないかと考えられます.

あくまでも ぞるば個人の意見ですがSIRDは,糖尿病が進行して糖尿病腎症が重症化するのではなくて,その逆,つまり 『腎症に由来する二次性糖尿病』に分類するのが適切だと思います
したがって私の考えではこうなります.

SIRDは 糖尿病ではないという考えです.

[9]に続く

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    最近、インスリン分泌量について疑問に思う事があります。

    インスリン分泌量が正常だが抵抗性がある(結果、血糖値が上がる)と診断される場合があると思いますが、人間のホメオスタシスは血糖値をある範囲に保とうとするはずです。
    インスリン抵抗性で血糖値が上がる場合は、正常値以上のインスリンを分泌して下げようとするのではないでしょうか。
    しかし、診断時点で分泌量は健常者と同程度(過去にはもっと多く分泌していたはず)ならば、これは既にインスリンが枯渇しかけていると考えるべきでインスリン分泌の正常値とは抵抗性を加味して考えるべきではないのかと思うのですが、ぞるば様はどのように考えますか?

    • しらねのぞるば より:

      それぞれ ある/なしの二元論でなく,3×3のMatrixで考えるべきと思います

      ◇空腹時血糖値(FPG)が 低い/正常/高い
      及び
      ◇空腹血中インスリン値(IRI)が 低い/正常/高い

      のMatrixです.
       ______________FPG_____
       _________低い|正常|高い
       I | 低い |[1] | [2]| [3]
       R | 正常 |[4] | [5]| [6]
       I | 高い |[7] | [8]| [9]

      上記のMatrixで
      [1] = 非常に高いインスリン感受性
      [2] = 高いインスリン感受性
      [3] = インスリン分泌不全
      [4] = 高いインスリン感受性
      [5] = 正常
      [6] = インスリン抵抗性
      [7] = 高インスリン血症(インスリノーマなど)
      [8] = インスリン抵抗性
      [9] = 強度のインスリン抵抗性

      なお,ここで IRIの低/正常/高は,絶対値ではありません. 正常なIRIは人によって違うからです. IRI=0.2が正常の人もいれば, 生まれてこのかた IRI=12だという人もいるでしょうから.
      したがって,HOMA-IRの数値も 一応考えません. IRIの正常値は規定できないし,HOMA-IRの算出に使う 405という経験的定数も日本人に適切な値かどうかもわからないからです.