ここまでの記事で,
- 日本の病院での検査の精度については,特に法的な規制はないこと
- しかし,日本医師会などが国内の医療・検査機関などを対象に,テスト形式で毎年検査精度の調査を行っていること
- その結果,血糖値とHbA1cに関しては,おおむね高い精度であることが確認されている
ということまでわかりました. ところが,
すべての医療機関が調査に参加したわけではない
2017~2018年に厚労省で開催された『検体検査の精度管理等に関する検討会議』では,
議事録にこういう発言がありました.【※数字】は,私がつけた注です.
○市川構成員【※1】 ありがとうございました。
ここで見せていただきました、特に医師会は3ページの参加施設の施設分類のところで見せていただきますと、病院が大体2つ合わせて2,000、200床以下の病院ですね。ということは、一般病院が8,000ぐらいとして、結構多いと見るのか少ないと見るのか、そこのところはいかがなのでしょうか。○高木参考人【※2】 これは先生御存じのように、毎年全国の全病院数は発表されております。それらのうちの2,000以上の施設が参加されています。これ以上の病院が参加していただくのが理想だと思いますが、いろいろなことを考えると、個人的にはこれぐらいが限度かなとは思っています。
○市川構成員 丸田構成員のほうは、特に200床未満の部分ですね。中小病院と言われているところの参加は数的には。○丸田構成員【※3】 参加割合は3分の1強ですので、まだまだおそらく検査は実施されていると思いますので、もう少し増えていただきたいのが実際のところです。ただ、当会の場合は少し細切れにいろいろな項目をつくっておりますので、小規模施設に合ったコースを新たにつくって調査を進めることも今後検討しております。
○市川構成員 そうしますと、日本臨床衛生検査技師会と医師会とのかなりオーバーラップしている部分の可能性があるということですね。
○丸田構成員 項目間のかなりの部分で重複しております。
○市川構成員 そうしますと、中小病院の約半分が外部精度と考えてもよろしいのか。もうちょっと多いでしょうか。6割ぐらい。
○高木参考人 そうだと思います。もう一つは、日臨技と日本医師会に参加している施設は、かなりオーバーラップしていると思っています。精度管理をしっかり行っている施設のほとんどは、日本医師会か技師会の精度管理調査には参加して、よい成績を返していただいていると思っています。
第2回検体検査の精度管理等に関する検討会議事録(2017年11月20日)
【※1】日本医師会 常任理事
【※2】日本医師会 臨床検査精度管理検討委員会委員長
【※3】日本臨床衛生検査技師会常務理事
このやりとりから分かるのは,『全国のすべての医療・検査機関が精度管理調査に参加したわけではない』ということです.
全国の医療施設の数は下記の通りです(精神科,隔離病院,感染病院などを除く一般医療施設).
ところが,日本医師会のこの調査に参加したのは 3,200施設あまりです.ただしこれには 一般病院以外の精神科や健康診断専門機関なども参加しているので,参加していない一般施設は少なく見積もっても4割くらいあることになります.特に中小病院(*)の参加率が低いことは日本医師会も気にかけているようです.
(*)看板に『~~病院』と掲げられるのは 『複数の診療科を持ち,20床以上の入院ベッド数を持つ医療機関』だけです.なお 開業医・クリニックなど,つまり「病院」ではないところは,ほとんど自前の検査ではなく外部委託でしょうから,この調査に間接的に参加していることになります.「中小病院」とは20床以上200床未満の病院を指します.
不自然な回答をする機関も
さらに この記事を見ると,
例えば特定の衛生検査所の系列施設では,ほぼすべての項目が同一の測定値として返却されていることが確認されている. これらは全く同値であり,数項目の同値なら考えられないことはないが,10数項目が全て同値であることは考えられない.
『外部精度管理の意義―日本医師会の調査を例に』
年に1回の調査で検査室の全てが評価され,しかも評価が極めて小さいCV(※)により行われるため,自衛意識が表れ,結果の共有化,不正行為が行われているのかもしれない.
臨床検査 58巻5号 p.620 2014年5月
(C) 医学書院
(※) CV= 変動係数. 前回記事参照.
多数の系列を持つ検査機関で,そのすべての系列機関から,全項目について まったく同じ測定結果が回答されたという例を紹介して,こんな不自然なことはありえないと指摘しています. 察するに,系列機関の1ヶ所だけが代表して精度管理用サンプルを測定し,それをすべての系列機関が共有してそのまま回答したか,あるいは 測定自体は全系列機関で行ったのだが,その結果を持ち寄って,もっとも『正解に近そうな値』に揃えて回答したかのどちらかでしょう.
このようなことが行われると,患者だけでなく医師からも不信感を持たれてしまいます. しかし,現状 このようなことが行われていても,誰も咎めることはできません.
法的根拠のない自主的調査の限界です.精度調査に参加する法的義務はないし,不誠実な回答をしても罰せられません.
日本の現状は以上の通りでした.最後に日本と海外との現状比較をして,このシリーズをまとめます.
[8]に続く
コメント
★西村様への連絡です.
『お問い合わせ』フォームからのご質問に返信したのですが,プロバイダのメールサーバーでブロックされていないでしょうか?
携帯・スマホでは,”.com”からのメールは,無条件で海外からの迷惑メールに分類するサーバーが多いようですので 念のため.