食後高血糖という悩ましいテーマについては,この本館ブログでも,また別館ブログでも 何度も取り上げています.
特にリブレが普及してきた現在,食後の血糖値の動きに悩まされる人はかえって増えたのではないでしょうか.
食事内容と食後血糖値との関係を調べた報告は国内外を問わず 多数あります.
ただ 特に 日本の報告では,たった1回の もしくは数回の食事試験であったり,そもそも被験者の普段の食事内容を調べていない あるいは揃えていなくて,ただ 適宜集めた被験者に「今回 お集まりいただいた人に,この食事を食べてもらったら こういう結果でした」というものが目立ちます. また被験者の「普段の食事」についても 本人アンケートによる食事調査がほとんどですから精度の高い調査ではありません.
信頼できる報告はないものかと探していたら,こういう文献がありました.
食事を摂った後,再び空腹を感じ始めるのは,何が決定因子なのかを調べた文献なのですが,かなり厳密な評価試験を行っています.
対象者は 21~50歳のBMI≧26.5,つまり肥満の男女64名です.肥満であること以外は 持病やアレルギーのないまったく健常な人達です(ただし一部 軽度の耐糖能障害[*]がある人も含む).
[*] 「軽度の耐糖能障害」:事前の糖負荷試験で2時間血糖値が 155mg/dl以下だった人
この人達を2群に分けて,下記の 高糖質・低脂肪食 又は 低糖質・高脂肪食を食べ続けてもらいました.
- 高糖質・低脂肪食: P/F/C = 18/27/55 (ただし飽和脂肪酸は 10%未満)
- 低糖質・高脂肪食: P/F/C = 18/39/43 (ただし飽和脂肪酸は 13%未満)
重要な点は,この食事は 本人任せにはせず,試験者側があらかじめ調理・準備したものを 毎朝 本人に3食分渡している給食形式なのです.しかもこの指定食を8週間にわたって継続してもらっています. 食事の栄養素構成は上表の通りですが,総カロリーは,被験者各人の性別・体重に応じて決定しています. しかも各人の体重変動を常に観察して,体重の増減傾向に応じて 適宜 総カロリーも調節しています.このように,基本的な状態を 厳密に揃えているので,短期間で一過性の(つまりいいかげんな)観察研究ではありません.
そして この人達に4週間ごとに,つまり8週間の試験期間中2回にわたり,全員に集まってもらってそれぞれ規定の朝食を食べてもらい(喫食時間は20分),その 食事直前,及び 食後15,60,90,120,180,240 分後に採血して検査しました. 更に被験者は,この朝食を食べた後の 満腹感/空腹感を下図の主観スケール(Flint VAS )で自己評価してもらいました.
結果
高糖質・低脂質食と 低糖質・高脂質食の朝食を食べた後の血糖値 及び 血中インスリン値はこうなりました.
そして,主観スケールによる空腹感/満足感の評価は下の通りでした.
やはり低糖質食に比べて 高糖質食は 早く食後血糖値が上がり,しかもより速やかに低下することがわかります. 注目すべきは 高糖質食の場合,食後2時間以降の血糖値は食前よりもむしろ低くなっています. これはインスリンの大量・急速な分泌の結果でしょう. なので 当然のことながら,食後3時間以降で高糖質食の方が「空腹感」は強くなっています.逆に 低糖質食は,満足感が長く続く,つまり『腹持ちがよい』ことがわかりました.
両タイプの食事で 体重・性別に応じた総カロリーには差をつけていないのですから,高糖質の食事は空腹感にかられて過食を,したがって肥満を促進しやすくなるだろうと,著者は警告しています.
ここで用いた試験食は 高糖質,低糖質とはいっても,糖質制限食をしている人からみれば それほど大きな差ではありません. それでもこのような食後血糖値の差が生じているのは 興味深い結果でした.
コメント
食べたら上がる。悩ましいですね。
糖質制限、賛成でも反対でもありませんが、数値上正常でも耐糖能異常はあるでしょうね。
血圧やコレステロールが問題ないとしても、検査項目に含まれていない部分では何かしら起きているかもしれませんし。
私は食後高血糖から、緩めの糖質制限に入り、タンパク質を増やすと胃腸がもたれ、全般的に食事量が減り痩せてきて、糖尿病薬の服用が開始されました。食事を摂って30分ごとに測ってみると、私の場合3時間経っても血糖値は高いまま。病院での検査から「インスリンが少ない」と言われました。
体はそれぞれ違うので、食事内容もそれぞれに工夫する必要はありますね。
>「インスリンが少ない」と
このタイプに妙手はないのが現状ですね. なので,イメグリミンには 随分期待したのですが,威勢のいい症例報告が出てこないところをみると,あまり効き目がないのかもしれません.